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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第68話 金魚すくい

「金魚すくい、やる?」


水槽に、金魚が泳いでいる。


赤い金魚、黒い金魚、まだらの金魚。


「やり方は?」


「この紙で、すくう」


薄い紙が張られた、丸い枠。


「すぐ破れるから、注意」


水に入れる。


金魚を追う。


でも——


ビリッ。


破れた。


「あー」


「難しいでしょ」


ヒナタが、代わりに挑戦。


慎重に、金魚を追い込む。


そして——


「取れた!」


小さな金魚。


ビニール袋に入れてもらう。


「はい、プレゼント」


「いいの?」


「記念に」


金魚が、袋の中で泳ぐ。


生きている。


小さな命。


大切にしなきゃ。


でも、2日後には——


「大丈夫」


ヒナタが言う。


「俺が、預かるから」


分かってくれている。


■タケシとの遭遇


「おー、ヒナタ!」


声がする。


タケシだ。


甚平姿。


「カナミちゃんも——」


言葉が止まる。


「……浴衣?」


「うん」


「似合う!」


タケシが、大げさに驚く。


「めちゃくちゃ可愛い」


「ありがとう」


「ヒナタ、お前ついてるな」


タケシが、ヒナタの肩を叩く。


「こんな可愛い子と、祭りデート」


「デートじゃ——」


「デートでしょ」


タケシが、ニヤニヤ。


「お前、変わったよ」


「え?」


「いい意味で」


タケシが、真面目な顔になる。


「前より、生き生きしてる」


「そう?」


「カナミちゃんのおかげかな」


タケシが、私を見る。


「ヒナタのこと、よろしく」


「はい」


でも、心が痛む。


あと2日しか、一緒にいられない。


シーン10:カセットテープの演歌


屋台の一角から、音楽が流れている。


カセットテープの音。


少し、音が歪んでいる。


演歌。


「津軽海峡冬景色」


物悲しいメロディ。


でも、祭りの賑やかさと混ざって、不思議な雰囲気。


「懐かしいな」


ヒナタが言う。


「小さい頃から、この曲」


「同じテープ?」


「多分」


伝統。


変わらないもの。


でも、テープは劣化していく。


いつか、聞けなくなる。


「踊る?」


ヒナタが、冗談めかして言う。


「演歌で?」


「意外といいかも」


でも、恥ずかしい。


人が多すぎる。


「今度、二人の時に」


ヒナタが、小声で言う。


ドキッとする。


二人の時。


それは、いつ?


■うちわの風


暑い。


浴衣は涼しいけど、人混みで暑い。


「はい」


ヒナタが、うちわを渡してくれる。


『音無神社』と書いてある。


扇ぐ。


風が起きる。


小さな風。


でも、気持ちいい。


「貸して」


ヒナタが言う。


「私が扇ぐ」


「え?」


「じっとしてて」


ヒナタが、私を扇いでくれる。


優しい風。


髪が、少し揺れる。


浴衣の袖も、揺れる。


「涼しい?」


「うん」


幸せ。


こんな小さなことが、幸せ。

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