第65話 監視AIの最終警告
『HARMONY システム、最終警告を発令』
機械音声が、また響く。
『感情汚染第3段階を確認』
『即時帰還を命令します』
「拒否します」
『拒否は認められません』
「私には、まだ時間があります」
『規定により、48時間以内に強制帰還プロトコルを実行します』
48時間。
2日。
『カウントダウン開始』
『47時間59分59秒』
『58秒』
『57秒』
カナミの決断
「分かりました」
カナミが、静かに言う。
「48時間後に、帰ります」
『確認しました』
「それまでは、私の時間です」
『警告:感情指数がさらに上昇した場合——』
カナミは、通信を切断する。
量子ビーコンの通信機能を、一時的に遮断。
これで、数時間は連絡が来ない。
「カナミちゃん?」
ヒナタが、心配そうに近づいてくる。
「大丈夫? 誰かと話してた?」
「独り言」
嘘をつく。
でも、これが最後の嘘。
神社の境内に、静寂が戻る。
蝉の声だけが響く。
48時間。
それが、私に残された時間。
ヒナタと過ごせる時間。
人間として生きられる時間。
短い。
でも、充分。
この48時間を、17年分生きよう。
いや、150年分。
「帰ろうか」
ヒナタが、手を差し出す。
「うん」
手を取る。
温かい手。
この温もりを、48時間、離さない。
『47時間55分12秒』
頭の中で、カウントダウンが続く。
でも、構わない。
時間は、長さじゃない。
深さだ。
神社の木が、教えてくれた。
300年も、一瞬も、同じ。
大切なのは、どう生きるか。
私は、生きる。
人間として。
最後まで。




