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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第63話 共鳴現象

その時——


異変が起きた。


神社の電灯が、点滅し始めた。


パッ、パッ、パッ。


規則的じゃない。


私の心臓のリズムに合わせているみたい。


「なんだ?」


ヒナタが、電灯を見上げる。


「故障?」


違う。


これは——


共鳴現象。


私の感情が、周囲に影響を与えている。


電子機器が、反応している。


そして——


御神木の葉が、ざわめき始めた。


風もないのに。


ざわざわ、ざわざわ。


まるで、木が話しているみたい。


「変だな」


ヒナタが、不安そう。


「地震の前兆とか?」


違う。


私のせい。


私の感情が、世界を狂わせている。




立っていられない。


膝が、崩れる。


「カナミちゃん!」


ヒナタが、支えてくれる。


「大丈夫?」


大丈夫じゃない。


全てが、限界。


体も、心も、時間も。


「ごめん」


「何が?」


「全部」


訳の分からないことを言っている。


でも、他に言葉が見つからない。


「とにかく、休もう」


ヒナタが、私を抱えて、社務所の縁側へ。


座らせてくれる。


「水、もらってくる」


ヒナタが、社務所へ。


一人になる。


空を見上げる。


虹色の空。


美しくて、恐ろしい。


これが、感情汚染。


人間になる、代償。


でも——


後悔はない。


この5日間は、17年の人生より濃かった。




「まだいたの」


声がして、振り返る。


ユイが立っている。


さっきとは、違う表情。


心配そう。


「顔色、悪い」


ユイが、隣に座る。


「……ごめんなさい」


「さっきのこと?」


私が謝る。


「もういい」


ユイが、ため息をつく。


「私も、大人げなかった」


「でも——」


「分かってる」


ユイが、私を見る。


「あなた、本当に消えるのね」


「……」


「いつ?」


「あと2日」


正直に答える。


「そう」


ユイが、空を見上げる。


「ヒナタ君、知ってる?」


「詳しくは」


「傷つくわよ」


「分かってる」


「でも、止められない?」


「……うん」


ユイが、小さく笑う。


「恋って、バカね」


「ごめん」


「謝らないで」


ユイが立ち上がる。


「でも、約束して」


「何を?」


「ヒナタ君を、幸せにして」


「私には——」


「2日でも」


ユイの目に、涙。


「2日でも、幸せにして」


そして、ユイは去っていく。


今度は、走らずに。




ヒナタが、水を持って戻ってくる。


「はい」


冷たい水。


飲む。


生き返る。


「ユイ、来てた?」


「うん」


「何か言ってた?」


「……応援してくれた」


「そう」


ヒナタが、優しく微笑む。


「ユイは、いい子だから」


「うん」


神社を後にする。


階段を下りる。


振り返ると、御神木が見える。


300年の時を生きる木。


その木が、見ている。


私たちの、儚い夏を。


電灯は、もう正常に戻っている。


でも、私の中では、まだ何かが共鳴している。


過去と現在と未来が。


そして、ヒナタと私が。


あと2日。


48時間。


2880分。


172800秒。


その全てを、大切にしよう。


神社の木が教えてくれた。


時間は、長さじゃない。


深さだ、と。

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