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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第62話 防空壕跡

「あ、そうだ」


ヒナタが思い出したように言う。


「防空壕跡、見る?」


「防空壕?」


「戦争の時の」


神社の裏手へ回る。


崖になっている。


そこに、穴が開いている。


入り口は狭い。


大人が一人、やっと通れるくらい。


「中、入れるよ」


「本当に?」


「うん。でも、暗いけど」


ヒナタが、先に入る。


私も続く。


中は、ひんやりとしている。


外より10度は低い。


そして、真っ暗。


「手、つないで」


ヒナタが手を差し出す。


見えないけど、分かる。


手を握る。


温かい手。


暗闇の中で、より温かく感じる。


「ここに、町の人が避難してた」


ヒナタの声が、響く。


「空襲の時」


1945年。


35年前。


でも、ここではまだ記憶が新しい。


「怖かっただろうね」


私が言う。


「うん」


手を握る力が、少し強くなる。


「でも、みんな助け合った」


「宮司さんのお父さんが、子供たちに昔話をしたって」


暗闇の中で、昔話。


怖さを紛らわせるため。


「外に出よう」


「うん」


でも、手は離さない。


出口へ向かう。


光が見えてくる。


外の世界が、眩しい。




防空壕から出た瞬間——


左腕のビーコンが振動する。


本部からの通信。


「ちょっと、ごめん」


ヒナタから少し離れる。


通信を確認。


『警告:感情指数6.8 第3段階症状確認 即時帰還を強く推奨』


6.8。


昨日より、さらに上昇。


そして——


視界が、おかしい。


青が、虹色に揺らいでいる。


空を見上げる。


青のはずの空が、七色にゆらめいている。


美しい。


でも、異常。


これが、第3段階の症状。


『応答せよ』


本部が、返事を求めている。


でも——


通信を切る。


もう、戻る気はない。


「カナミちゃん?」


ヒナタが心配そうに近づく。


「何か、あった?」


「ううん、何でもない」


嘘。


全てが、おかしくなっている。




「カナミちゃん」


ヒナタが、真剣な顔で見つめる。


「何か隠してる?」


鋭い。


「どうして?」


「分かる」


ヒナタが、私の手を取る。


「震えてる」


確かに、震えている。


止まらない震え。


「それに、目が」


「目?」


「色が、変わって見える」


ヒナタも気づいている。


私の瞳の、異常な変化。


「本当は、誰?」


ヒナタの問い。


答えられない。


150年後から来た、なんて。


「病気なの?」


「違う」


「じゃあ、何?」


「……言えない」


「なんで?」


「信じてもらえない」


「試してみて」


ヒナタの目が、真剣。


でも——


言えない。


言ったら、全てが壊れる。


この関係が、壊れる。

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