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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第61話 御神木へ

「せっかく来たから、御神木見る?」


ヒナタが提案する。


気分を変えるために。


「うん」


拝殿の裏へ回る。


そこに——


巨大な欅が立っていた。


圧倒的な存在感。


幹回りは、大人が5人で手をつないでも届かないくらい。


高さは、30メートル以上。


枝が、四方八方に伸びている。


葉が、風でざわざわと鳴る。


「すごい……」


「でしょ?」


ヒナタが、木に近づく。


「触ってみて」


私も近づく。


手を伸ばす。


樹皮に触れる。


ざらざらとした感触。


深い溝。


苔が生えている部分は、柔らかい。


そして——


振動?


微かに、震えている。


「感じる?」


ヒナタが聞く。


「震えてる」


「生きてる証拠」


生きている。


300年も。


手のひらに、時間の重みを感じる。


この木は、江戸時代からここにいる。


侍がいた時代。


明治維新も見た。


戦争も見た。


そして、今も生きている。


私の17年なんて、一瞬。




木に触れたまま、目を閉じる。


すると——


時間が、おかしくなる。


過去と現在が、混ざる。


江戸時代の祭りの音が聞こえる。


太鼓の音。笛の音。


明治の人々の話し声。


「文明開化じゃ」


大正の子供たちの笑い声。


昭和の戦時中。


空襲警報。


防空壕へ急ぐ足音。


そして——


未来?


2130年の、無音の世界。


いや、違う。


これは、私の記憶。


過去と未来が、この木の中で混ざっている。


「カナミちゃん?」


ヒナタの声で、現実に戻る。


「大丈夫?」


「うん……」


でも、めまいがする。


時間感覚が、狂っている。




「おや、若い人たちが」


声がして、振り返る。


宮司さん。


60代くらい。


白い衣装。


優しそうな顔。


でも、目が鋭い。


「ヒナタ君じゃないか」


「こんにちは、宮司さん」


「彼女さんかい?」


また、その質問。


「友達です」


「そうかい」


宮司さんが、私を見る。


じっと見る。


見透かすような目。


「お嬢さん、遠くから来たね」


「はい、東京から」


「いや、もっと遠くから」


ドキッとする。


まさか、気づいている?


「時を越えて、来たような顔をしている」


比喩? それとも——


「時を越える想いもありますよ」


宮司さんが、御神木を見上げる。


「この木は、全て見ている」


「全て?」


「過去も、現在も、未来も」


宮司さんが、微笑む。


「お嬢さんも、何か大切なものを探しているね」


「……はい」


「見つかるといいね」


そして、宮司さんは社務所へ戻っていく。


意味深な言葉を残して。

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