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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第47話 神社でのラムネ

神社に着く。


昨日も来た場所。


でも、今日は違う。


友達と一緒。


「ここがいい」


タケシが、境内の端を指す。


木陰になっている。


石のベンチがある。


座る。


三人並んで。


私が真ん中。


「じゃあ、開けるか」


タケシが、ラムネの栓を押す。


プシュッ。


炭酸が弾ける音。


「カナミちゃん、できる?」


「昨日教わった」


「じゃあ、やってみて」


ビー玉を、押し込む。


プシュッ。


また、あの音。


炭酸が、シュワシュワと泡立つ。


「上手い」


ヒナタも開ける。


三本のラムネ。


「乾杯」


タケシが言う。


「何に?」


「夏に」


「夏に」


瓶をぶつける。


カン。


ガラスの音。


そして、飲む。


冷たい。


炭酸が、舌で爆ぜる。


ピリピリ、シュワシュワ。


甘さが広がる。


レモンの風味。


鼻に抜ける刺激。


「あー、夏だな」


タケシが言う。


「ラムネは夏」


「なんで?」


私が聞く。


「なんでだろ」


タケシが考える。


「昔からそう」


理由はない。


でも、そういうもの。


文化。


伝統。




ラムネを飲み終わる。


でも、ビー玉は瓶の中。


振ると——


カランカラン。


いい音。


「これ、取れないの?」


改めて聞く。


「取れない」


「割れば取れるけど」


タケシが言う。


「危ない」


ヒナタが止める。


「分かってる」


でも、ビー玉が欲しくなる気持ち、分かる。


透明な、きれいな球。


閉じ込められた宝石。


「昔、取ろうとした」


ヒナタが言う。


「取れた?」


「瓶が割れた」


「怪我した?」


「ちょっと」


手を見せる。


親指に、小さな傷跡。


「ここ」


薄い、白い線。


「痛かった?」


「すごく」


でも、笑っている。


思い出として、笑っている。


傷跡も、思い出。


カランカラン。


また、ビー玉が鳴る。


この音を、覚えておこう。


記録じゃなく、記憶に。


夏の音として。


ラムネの音として。


そして——


ヒナタとタケシと過ごした時間の音として。

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