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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第45話 蚊取り線香の煙

「ところで」


フクばあちゃんが、私を見る。


「お嬢ちゃん、帽子は買ったのね」


麦わら帽子を指して。


「はい、昨日」


「それでいい。この日差しじゃ、倒れちゃう」


心配してくれている。


「都会の子は、暑さに弱いから」


「そうなんですか?」


「そうよ。クーラーに慣れてるでしょ?」


クーラー。


冷房装置。


2130年では、常に22度。


でも、それは自然じゃない。


「ここは、自然の風」


フクばあちゃんが、扇風機を指す。


古い扇風機。


首を振りながら、ゆっくり回っている。


カタカタと、少し音がする。


「でも、これも電気」


「そうね」


「昔は、団扇だけ」


団扇。


手で扇ぐ。


原始的。でも、確実。


「今でも使うわよ」


カウンターに、団扇がある。


『マルフク』と書いてある。


宣伝用。


「持ってく?」


「いいんですか?」


「どうぞ」


団扇を受け取る。


竹の骨組み。紙が貼ってある。


軽い。


扇いでみる。


風が起きる。


自分で作る風。


「上手ね」


「ありがとうございます」


蚊取り線香の煙が、団扇の風で揺れる。


渦を巻いて、形を変えて。


「きれい」


「煙が?」


ヒナタが、また不思議そう。


「動きが」


「確かに」


二人で、煙を見つめる。


ゆらゆらと、予測不能な動き。


でも、美しい。




「おーい、ヒナタ!」


ドアが開く。


チリン。


「お、タケシ」


昨日も会った、ヒナタの友達。


「カナミちゃんもいる」


「うん」


「おっ、カノジョと駄菓子屋デート?」


タケシが、ニヤニヤ。


「だから違うって」


ヒナタが、赤くなる。


「そう? でも仲良さそう」


「友達だから」


「ふーん」


信じてない顔。


「タケシも買い物?」


「ラムネ買いに」


「奇遇だな、俺たちも」


「一緒に飲む?」


「いいね」


タケシも、ラムネを選ぶ。


「フクばあちゃん、これ」


「はいよ」


三本のラムネ。


カランカランと、ビー玉が鳴る。


「どこで飲む?」


「川原は?」


「暑いよ」


「じゃあ、神社」


「それがいい」


男子の会話。


短い言葉の応酬。


でも、通じ合っている。


「カナミちゃんもいい?」


「うん」


仲間に入れてもらえた。


嬉しい。

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