第44話 駄菓子の誘惑
「好きなの選んで」
フクばあちゃんが言う。
見回す。
こんなに種類があるなんて。
「これは?」
「ベビースターラーメン」
「これは?」
「うまい棒」
一つ一つ、ヒナタが説明してくれる。
子供たちが、店内を走り回る。
「これください!」
「10円!」
「20円!」
小銭を握りしめて。
真剣な顔で、お菓子を選ぶ。
これが、子供の世界。
私には、なかった世界。
「お嬢ちゃん、これなんかどう?」
フクばあちゃんが、飴を差し出す。
「きいちご飴。懐かしい味よ」
赤い飴。
透明で、中に気泡が入っている。
宝石みたい。
「いただきます」
口に入れる。
甘い。
でも、ただの甘さじゃない。
懐かしい甘さ。
なぜ懐かしいのか、分からないけど。
「美味しい?」
「はい」
「よかった」
フクばあちゃんが、優しく微笑む。
「あ、そうだ」
ヒナタが、棚の一角を指す。
「ラムネ」
ガラスの瓶が、並んでいる。
朝の光が、斜めに差し込んで——
瓶が、キラキラ光っている。
青い瓶、緑の瓶、透明な瓶。
それぞれに、ビー玉が入っている。
「昨日も飲んだけど」
「もう一回」
ヒナタが、瓶を手に取る。
「フクばあちゃん、二本」
「はいよ」
「でも、まだ飲まない」
ヒナタが言う。
「なんで?」
「後で、特別な場所で」
特別な場所?
「それより、これ見て」
ヒナタが、瓶を光にかざす。
西日が、窓から差し込んでいる。
オレンジ色の光。
瓶を通過した光が、床に模様を作る。
ビー玉が、レンズになって。
「きれい」
「でしょ?」
子供みたいに、嬉しそう。
「フクばあちゃん、これ昔からある?」
「そうねぇ、私が嫁に来た時からあったから」
「何年前?」
「50年前かしら」
50年。
半世紀。
このラムネは、50年前から。
「変わらない?」
「基本は同じ。でも、少しずつ違う」
フクばあちゃんが、瓶を見比べる。
「昔の瓶は、もっと厚かった」
「今は?」
「薄くなった。軽くなった」
進化? それとも退化?
「でも、ビー玉は同じ」
カラン。
瓶を振ると、音がする。
「この音は、変わらない」




