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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第43話 マルフクへの道

商店街を歩く。


朝の光が、斜めに差し込む。


影が長い。


「あ、おはようございます」


ヒナタが、すれ違う人に挨拶する。


みんな、ヒナタを知っている。


「ヒナタ君、今日も元気だね」


「彼女?」


「友達です!」


もう慣れた様子で答える。


私も、少し慣れた。


この温かい誤解に。


魚屋の前を通る。


朝獲れの魚が、氷の上に並ぶ。


アジ、サバ、イワシ。


目がまだ澄んでいる。


「新鮮だね」


「そう? 普通だけど」


ヒナタにとっては、日常。


私にとっては、特別。


八百屋の前。


野菜に水をかけている。


キャベツ、レタス、トマト。


水滴が、朝日でキラキラ光る。


「きれい」


思わず呟く。


「野菜が?」


ヒナタが不思議そう。


「水滴が」


「変わってるね、カナミちゃん」


でも、嫌な言い方じゃない。


むしろ、面白がっている。




『マルフク』


看板が見えてくる。


年季の入った木の看板。


文字が少し薄れている。


でも、それが味になっている。


店の前に、自転車が何台か。


子供たちの自転車。


「朝から賑わってる」


ヒナタが嬉しそう。


ドアを開ける。


チリン。


鈴の音。


そして——


「♪明るいナショナル、明るいナショナル♪」


AMラジオから、CMソングが流れている。


「♪みんな家中、なんでもナショナル♪」


明るい、能天気な歌。


これが、1980年。


店内は、駄菓子の王国。


ガラスの瓶が、棚にずらりと並ぶ。


飴、ガム、チョコ、スナック菓子。


カラフルな包装紙。


原色の洪水。


そして——


蚊取り線香の煙。


渦を巻いて、ゆらゆらと立ち上る。


独特の匂い。


除虫菊の匂い。


夏の匂い。


パチパチと、線香が燃える音。


小さく、でも確かに聞こえる。


「いらっしゃい」


カウンターの奥から、フクばあちゃん。


小柄な体。でも、背筋はピンと伸びている。


深いしわ。でも、目は若々しい。


「あら、ヒナタちゃん」


「おはようございます、フクばあちゃん」


「今日も彼女連れ?」


もう諦めたように、ヒナタは苦笑い。


「はい、彼女です」


「え?」


私が驚く。


「冗談、冗談」


ヒナタが慌てる。


フクばあちゃんが、くすくす笑う。


「初々しいねぇ」

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