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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第42話 朝の商店街

2130年の独白


炭酸。CO2が水に溶解した状態。その定義は知っていた。でも舌で爆ぜる驚きは、データにはなかった。


化学式は簡単だ。H2O + CO2 → H2CO3。炭酸水。圧力をかけて二酸化炭素を溶かし込む。開栓すると圧力が下がり、気体として放出される。


でも、あの瞬間——ラムネの瓶を開けた瞬間の、プシュッという音。舌の上で弾ける無数の泡。鼻に抜ける刺激。そして、ビー玉がカランカランと鳴る音。


それらは、データには変換できない「体験」だった。


今でも思い出すだけで、舌がピリピリする。あの夏の日の、ラムネの味を。


朝の商店街


1980年8月11日、午前10時。


三日目の朝。


商店街の入り口で、ヒナタを待つ。


今日も暑い。もう慣れてきた。汗が流れるのも、肌がべたつくのも。


麦わら帽子が、私の一部になっている。


「カナミちゃん!」


ヒナタが来る。今日は少し遅れ気味。


「ごめん、寝坊した」


髪が少し乱れている。慌てて来たんだろう。


「大丈夫」


「今日は大丈夫? 昨日、具合悪そうだったから」


心配してくれている。


手の震えは、まだ少しある。でも、昨日よりまし。


「うん、元気」


「よかった」


ヒナタが安心したように笑う。


「今日はどこ行く?」


「そうだな……」


ヒナタが考える。


朝の商店街は、まだ静か。


開店準備をしている店が多い。


シャッターを開ける音。ガラガラ。


品物を並べる音。


「おはようございます」


挨拶が飛び交う。


活気が、少しずつ生まれていく。


「あ、そうだ」


ヒナタが何か思いついた顔。


「駄菓子屋、行こう」


「駄菓子屋?」


「昨日、ラムネ買ったとこ」


マルフク。フクばあちゃんの店。


「今日こそ、ちゃんと紹介する」

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