表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
33/103

第33話 屋上への逃避

「屋上、行く?」


ヒナタが提案する。


「風が気持ちいいから」


屋上。


データにない場所。


「うん」


階段を、さらに上る。


最上階。


重い扉を開ける。


風が——


一気に吹き込む。


熱い風。でも、教室より涼しい。


髪が、激しく乱れる。


麦わら帽子を、押さえる。


「すごい……」


屋上から見る景色。


360度、見渡せる。


町が、全部見える。


商店街のアーケード。


住宅街の屋根の連なり。


田んぼの緑。


遠くの山々。


そして——


空。


どこまでも続く、青い空。


いや、今は少し緑がかって見えるけど。


でも、広い。


圧倒的に、広い。


「ここ、好きなんだ」


ヒナタが、フェンスにもたれる。


「誰も来ないし」


私も、隣に立つ。


風が、気持ちいい。


汗が、乾いていく。


「カナミちゃんの学校は?」


「……ない」


「ない?」


「私立だから、もう卒業して」


嘘を重ねる。


「へー、頭いいんだ」


「そんなことない」


本当は、学校に行ったことがない。


施設での訓練だけ。


仲間と笑い合う、青春なんてない。


「でも、なんか大人っぽい」


ヒナタが言う。


「俺より、ずっとしっかりしてる」


「そんなことない」


本当に、そんなことない。


今も、手が震えているし、心臓がドキドキしている。


全然、しっかりしてない。


「あ、見て」


ヒナタが、どこかを指す。


「あそこ、新しい道路ができる」


見ると、測量の杭が打たれている。


赤い杭が、点々と。


「来年には、工事が始まる」


「嫌?」


「うーん、便利になるのはいいけど」


ヒナタが、遠くを見る。


「田んぼが潰れるんだ。うちの田んぼも」


「え?」


「うち、農家もやってるから」


知らなかった。


「じいちゃんが、寂しそうでさ」


ヒナタの横顔。


少し、悲しそう。


「でも、時代だから」


諦めたような、微笑み。


「10年後には、ここも全部変わるんだろうな」


10年後。


1990年。


確かに、変わる。


もっと変わる。


そして、150年後には——


「でも、今はまだある」


ヒナタが、明るく言う。


「だから、今を楽しまないと」


今を、楽しむ。


そんな発想、なかった。


未来のために、今を犠牲にする。


それが、2130年の常識。


でも、ヒナタは違う。


今を、大切にしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ