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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
31/103

第31話 教室という空間

教室。


データで見たことはある。でも、実際は——


机が、6列7行。42人分。


木の机。表面に、落書きがある。


誰かの名前。ハートマーク。意味不明な記号。


それぞれの机に、それぞれの物語。


「俺の席」


ヒナタが、窓側の後ろから三番目を指す。


座ってみる。


「どう?」


「不思議な感じ」


机に向かう。


引き出しがある。開けてみる。


「あ、消しゴム忘れてた」


小さな消しゴム。使い込まれて、角が丸い。


黒板を見る。


ここで、授業を受ける。


友達と、話す。


居眠りする。


恋をする。


青春を、過ごす。


私には、なかった時間。


胸が、締め付けられる。


羨ましい。


でも、それ以上に——


愛おしい。


この空間が、この時間が。


立ち上がって、窓際へ。


外を見る。


校庭が見える。街が見える。遠くに山が見える。


「いい眺め」


「でしょ? 授業中、よく外見てる」


ヒナタが、隣に立つ。


肩が、触れる。


ドキッとする。


でも、離れない。


このまま、このまま——


親指と人差し指で、フレームを作る。


この景色を、記録しよう。


教室から見える、夏の景色を。


光スキャナーが、起動する。


データ化が始まる。


校庭、木々、遠くの山——


でも。


「あれ?」


フレームが、震えている。


指が、小刻みに震えている。


なぜ?


集中する。でも、震えが止まらない。


「どうした?」


ヒナタが、心配そうに覗き込む。


その瞬間——


エラー。


スキャンが、停止した。


初めてのことだ。


風景をスキャンできないなんて。


「大丈夫?」


ヒナタの顔が、近い。


心配そうな、優しい顔。


思わず、彼にフレームを向ける。


記録しようとする。


でも——


また、エラー。


しかも、もっと激しい。


まるで、スキャナー自体が拒否しているみたい。


『この笑顔を、データにするな』


そう、叫んでいるみたい。

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