第21話 ラムネの味
商店街の、ベンチ。
木製。少し、ペンキが剥げている。
でも、座り心地はいい。
「開け方、知ってる?」
ヒナタが、聞く。
「ううん」
「じゃあ、教えるね」
ビー玉を、押し込む。
プシュッ。
炭酸が、はじける。
「はい」
受け取る。
冷たい。
瓶が、汗をかいている。
飲む。
舌が——
「つめたい!」
「そりゃそうでしょ」
炭酸が、舌で踊る。
ピリピリ。
甘い。
レモンの、爽やかさ。
そして——
ビー玉が、カラン。
「この音、好き」
ヒナタが、言う。
「夏の音」
夏の音。
確かに。
この音は、夏にしか聞こえない。
「ビー玉、取れないの?」
「取れない」
「なんで?」
「さあ? でも、それがいいんじゃない?」
取れないもの。
無駄なもの。
でも、それがいい。
効率だけじゃない、何か。
風情。
趣。
人間らしさ。
「美味しい?」
「うん、すごく」
「良かった」
ヒナタが、嬉しそう。
まるで、自分が作ったみたいに。
「カナミちゃんって、どこから来たの?」
「東京の、方から」
嘘じゃない。
150年後の、東京から。
「へー、都会っ子」
「そうでも……」
「でも、なんか雰囲気が違う」
雰囲気。
何が、違うんだろう。
「不思議な感じ」
「不思議?」
「うん。なんて言うか……」
ヒナタが、考える。
眉間に、少ししわ。
「透明? いや、違うな」
「?」
「ピュア? それも違う」
言葉を、探している。
「あ、そうだ」
何か、思いついた顔。
「生まれたて」
「生まれたて?」
「うん。全部を初めて見るような」
鋭い。
確かに、私は生まれたて。
1時間前に、再構築されたばかり。
「変かな?」
「ううん。素敵」
素敵。
褒められた。
嬉しい。
顔が、熱くなる。
また、照れている。
「あのさ」
ヒナタが、言う。
「これから、どうする?」
これから。
任務は、ある。
でも——
「もっと、町を見たい」
「じゃあ、案内する」
「いいの?」
「もちろん」
ヒナタが、立ち上がる。
「行こう」
手を、差し出される。
今度は、躊躇しない。
手を、取る。
温かい手。
引っ張られて、立ち上がる。
「どこ行く?」
「どこでも」
「どこでも?」
「うん。君が好きな場所」
君。
親しい呼び方。
「じゃあ、川に行こう」
「川?」
「うん。涼しいし」
手を、つないだまま。
歩き始める。
商店街を、抜けて。




