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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第16話 最初の観察

【最初の観察】


立ち上がる。


足が、震えている。


新生児のよう。いや、実際、生まれたばかり。


でも、立つ。


立たなければ。


これは、任務。


見回す。


古い校舎。木造。昭和の建築。


ペンキが剥がれている。何層にも塗り重ねられた跡。白、クリーム、薄緑。


窓ガラスにひび。


蜘蛛の巣のような、美しいひび。


完璧じゃない。不完全。


でも、美しい。


なぜ?


分からない。でも、心が震える。


朝顔。


フェンスに絡まっている。青紫の花。


ツルが、らせんを描いて、上へ上へ。


風で、ゆらゆら。


花びらが、微かに震える。


一つとして、同じ形はない。


大きいの、小さいの、しぼみかけ、今咲いたばかり。


データで見た朝顔は、平均値だった。


でも、これは全部違う。全部が、唯一無二。


虫。


アリが、列を作っている。


小さい。3ミリくらい。黒い。


何かを運んでいる。死んだバッタ?


自分の体重の何倍もある獲物。


効率的じゃない動き。迷って、戻って、また進む。


でも、確実に前進している。


仲間と、触角で会話している。


化学物質での通信。原始的だけど、確実。


セミの抜け殻。


木の幹に、しがみついている。


透明。中身は、もういない。


背中が、パックリ割れている。


ここから、成虫が出てきた。


7年間、土の中。そして、1週間の地上。


儚い。


でも、必死に生きた証。


触ってみる。


パリッ。


簡単に、崩れる。


指先に、破片が残る。


軽い。ほとんど重さがない。


でも、確かに存在していた。


陽炎。


アスファルトから、立ち上る。


ゆらゆら、ゆらゆら。


空気が、熱で歪んでいる。


光の屈折。物理現象。


向こうの景色が、揺れて見える。


まるで、水の中のよう。


いや、違う。これは、熱の海。


これも、記録できるだろうか?


親指と人差し指で、フレームを作ろうとする。


でも——


手が、震えている。


汗で、すべる。


フレームが、作れない。


なぜ?


訓練では、完璧にできたのに。


「何してるの?」


声。


振り返る。


少年が、立っていた。

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