表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
15/103

第15話 感覚の爆発

【感覚の爆発】


熱い。


これが、最初の感覚。


全身が、燃えているよう。


気温32度。湿度78%。


でも、数値じゃない。肌にまとわりつく、ねっとりとした熱気。


水飴の中にいるような、重い空気。


息ができない。


いや、できる。でも、苦しい。


空気が重い。肺に流れ込むのに、抵抗がある。


鼻腔が、ヒリヒリする。


匂い。


土の匂い。湿った、重い匂い。何億もの微生物が発する、生命の匂い。


ミミズ、ダンゴムシ、名前も知らない虫たち。


草いきれ。青臭くて、むせ返る。葉緑素が、太陽光で分解される匂い。


刈り取られた草の、甘い腐敗臭。


遠くから、排気ガス。不完全燃焼の、化学物質の匂い。


ガソリン、オイル、タイヤのゴム。


そして——


音。


蝉だ。


ミンミンゼミの、金属的な声。ミーンミンミンミンミンミー。


高周波が、鼓膜を突き刺す。


アブラゼミの、油が跳ねるような声。ジージリジリジリジリ。


低周波が、腹に響く。


ツクツクボウシの、リズミカルな声。ツクツクボーシ、ツクツクボーシ。


まるで、誰かが名前を呼んでいるような。


ニイニイゼミの、控えめな声。ニーニー。


重なり合い、共鳴し、空気を震わせる。


音の壁。音の津波。


鼓膜が、悲鳴を上げる。


でも、止められない。耳を塞ぐ手すら、まだ思うように動かない。


風の音。


葉が擦れる。サワサワ、カサカサ。不規則で、予測不能。


竹が軋む。ギィギィ。


遠くで、車のエンジン音。ブルルル。


古いエンジン。不完全な燃焼。黒い煙を吐きながら。


犬の吠え声。ワンワン。


鎖の音。ジャラジャラ。


子供の声。「待てよー!」「つかまえてみろー!」


無邪気な叫び。規制されない、自由な声。


生きている。


全てが、生きている。


膝が、崩れる。


重力を、初めて実感する。


地球が、私を引っ張っている。


地面。


アスファルト。焼けている。50度近い。


手をつく。


ジリッ。


皮膚が、悲鳴を上げる。


水ぶくれができそうな、熱さ。


でも、これも感覚。


生きている証拠。


小石が、手のひらに食い込む。痛い。


尖った石。丸い石。ざらざらの石。


それぞれ違う。それぞれ個性がある。


汗。


全身から、水が噴き出す。


初めての発汗。


毛穴という毛穴から、水が溢れる。


べたつく。気持ち悪い。


服が、肌に張り付く。


転送用のスーツ。薄い素材。すぐに汗でびしょびしょ。


でも、身体が冷えようとしている。


体温調節。原始的だけど、効果的。


生きている証拠。


汗が、目に入る。


しょっぱい。


塩分。ミネラル。身体から失われていく。


涙? いや、汗。


でも、涙も混じっているかもしれない。


あまりにも、全てが、圧倒的で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ