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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第11話 手術前夜(16歳)

【手術前夜(16歳)】


明日、手術。


部屋で、青いコレクションを全て出す。


ガラスビーズ。最初の青。


インク瓶の破片。深い海の青。


古い切手。空の青。


プラスチック片。玩具の青。


そして、母の布。原点の青。


一つ一つを、胸の上に並べる。


呼吸と共に、上下する。


生きている証。


ドアが開く。


リョウ。


「大丈夫?」


「規則違反よ」


「今更」


彼は、ユキの絵の一部を差し出す。


「お守り」


受け取る。濃い青。何層もの青。


「リョウ、もしユキ先輩みたいになったら」


「ならない」


「どうして言い切れる?」


「君は、帰る場所があるから」


青いコレクションを指差す。


「これが、君の錨だ」


「錨は、時に船を沈めるって、あなたが」


「でも、なければ漂流する」


リョウが窓の外を見る。電子ドーム。


「カナミ、約束して」


「何を?」


「向こうで出会う人の、名前を覚えないで」


「どうして?」


「名前を知ると、忘れられなくなる。ユキのように」


リョウの声が震える。


「彼女は、今も呼んでいる。会ったこともない少年の名前を」


【手術(16歳)】


手術室。地下。


白い手術台に横たわる。


「麻酔はかけません。意識下での較正が必要です」


若い医師。手が震えている。


「あなたの年齢では、リスクが高い。脳がまだ——」


「分かっています」


頭を固定される。まぶたを開かれる。


「レーザーで角膜を切開します」


痛みはない。でも、見える。


機械が近づいてくる。


「装置を挿入します」


異物が、目の奥に入る。


「ナノマシンを注入」


冷たい液体が広がる。


視界が変わる。世界が、デジタルの格子に分解される。


そして——


青が見える。


記憶の中の青。母の見せた青。


「脳波に異常」


「記憶野が活性化しています」


「感情指数、3.0超過」


「抑制剤を」


「拒否反応が」


青が、どんどん鮮明になる。


5歳の朝。母の笑顔。父の手。風の匂い。


飛び込みたい。溶けたい。


「手術完了」


現実に引き戻される。


鏡を見る。


瞳が、青灰色に変わっている。


機械の瞳。


でも、その奥には、まだ5歳の私がいる。


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