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第11話 ギルドの依頼をこなします ※

クシュ連合王国と魔の森の境目。その二つを隔てる石の壁がある。

石の壁はそのまま「ストーンウォール」と呼ばれ人類圏と魔物世界の境界線とされている。


その要衝を守る十数基の砦。等間隔に置かれた砦の中でも最も魔物の攻撃に晒され、その全てを撃退した難攻不落の砦が存在する。

それこそクシュ連合王国南部基地である。


その北には街が三角州のごとく広がる。街の名はククト。黄金を象るその名の通り人類にとって値千金の価値がある。そうカシュの地を治める諸侯は見ている。


かつてのククトが一つの街に成長しその名で呼ばれるに至る過程で諸侯間ではとある不文律が形となっていた。それは『ククトに手を出してはいけない』というルール。

魔物をせき止める南部基地なくしてカシュは無く、南部基地を支えるククトなしに明日は無い。

王にそう言わしめるほど、この二つは連理の枝となってこの地を守っている。


僕たちはそのストーンウォールと魔の森、その狭間にいる。

冒険者ギルドで登録を済ませた足で魔物討伐の依頼を受けたのだ。今は二手に分かれて依頼をこなしている。


「お兄さま!背後から敵です!」


「ナイス、ミサキ!」


僕は青色魔法で強化した矢を、赤色魔法で強化した肉体で投げる。矢は白い軌道を描いて魔物へと遠ざかった。

寸前で跳躍した魔物を光線のごとき矢が射貫く。その体は矢の勢いのまま魔の森へと墜落した。


横を見ると、周囲を警戒しているミサキがこくりと頷く。さっきのが最後のようだ。

僕は小さく息を吐いて魔法を解く。ミサキが視覚外の敵をマナ探知で見つけ、それを僕が叩く。ぶっつけ本番にしては上手くいった。


「やっぱり索敵のあるなしで戦闘が別物だね」


「ありがとうございます。私は戦えませんから、これくらいはやります」


ミサキは両腕を胸の前に置いて「索敵は任せてください」と拳に力を入れた。


ミサキは僕と同様に軽装の防具を身に着けてはいるが武器や杖を持っていない。彼女が言うには側仕えがやる事と言えば王女、つまりミコトの世話が主で戦闘訓練を受けさせて貰えなかったと。だから邪魔しないように今回の依頼の同行を拒んでいた。それに魔法が一朝一夕で使えるわけもないとも。


しかしギルドの人に言わせれば今からでも遅くないらしい。だからこうして連れてきた。魔法であれなんであれ、力が使えても戦闘の雰囲気で圧されてしまえば使い物にならない事はよく知っている。


そう考えたのだが、ミサキは全く動じない。そういえば食い荒らされた死骸を見ても汗一つかいていなかった。


そんなミサキの狐耳がピクリと何かに反応した。


「お兄さま、何か、来ます」


その一群は魔の森から迫って来た。さっきの奴らとはまるで違う、狼の体に顔程の翼を生やした魔物、その群れだ。


いつの間にかいたのか「うっわ、何ですかアレ」とルナは天井を這う虫を見た時のような声を上げた。

「ギルドの人が言ってた新種ってやつじゃない?」とそのルナを見た僕も同じ声を上げてしまった。


ルナの纏うもの。黒色魔法が作り出した外殻、その黒の鎧に血がびっしりとついている。鎧の凹凸からは液体が滴って足元の草を赤くする。


「ああ、これですか?返り血ですよ。安心してください私は無事です」


「……そうか。とはいえ疲れたでしょ?あれは僕が行くから休んでたら?」


「いえ!問題ありません!いきます!」


言うとルナは疾走した。


「お姉ちゃん早いよ」


ルナと入れ替わるようにミコトが帰ってきた。


「お疲れ様、ミコト」


昨日に判明した事だがミコトは王女だ。本来は僕が仰ぎ見るべき存在なのだが、今はミコトの希望でミサキと同等に扱っている。ミコトは「ミサキに苦労を掛けた分、せめて同じ苦労を経験したい」と言っていたが、その言葉には地位の隠匿も含んでいるのだろう。


昨日といえば、そこから彼女の口数が急に増えた。

恐らく今までは僕とルナが間者である可能性を疑っていたのだろう。しかし今は気を許した、というよりも協力者に対する礼儀として素を見せているように感じる。


「ミコト大丈夫?」


「うん大丈夫。ところでお姉ちゃんは?」


僕とミサキは向こうで暴れているルナを指さす。


「無茶苦茶すぎる」と言ってミコトは体を投げ出した。


僕は霧散していた金の霧、その一部をルナの周囲で待機させると、いつでも援護ができるように魔物とルナの戦闘に集中した。



ルナは雁行する魔物の群れと対峙する。


ルナは速度を落とし黒剣を振り上げる。ガシャン!と鎧を揺らして地面を大きく踏みこむと先頭の一匹めがけて振り下ろした。


魔物の厄介な点はその強さではない、硬さだと僕は実感している。魔物を守る毛皮は鉄の硬さを持ち、その皮膚は分厚く、そこに脂肪も加わって完璧な防御を誇る。

魔物も、その事をこれまでの狩りで理解していた。だから敢えて黒剣を受ける。いつものように攻撃を受け、その間に後ろの仲間が襲う。獣の知能が勝利を確信し涎をだらしなく零した。


魔物の経験通り剣はその防御に為す術はなかった。毛皮は刃を通さず、肉にも、骨にすら届かない。

なぜなら元よりルナには切る意思がなかった。黒剣の一撃が落とされる。それは毛皮も皮膚も脂肪も筋肉も骨も内蔵もなにもかもを、叩き潰した。

魔物は正中線に沿って潰れた。だが魔物は寸前に事切れていた。体で受け止めた衝撃がそのまま内臓の全てを血まみれにしたのだ。


ルナは地面から返ってくる衝撃で剣を振り上げると正面で跳躍した魔物に振り下ろす。

次に黒剣を胸の位置に戻した時、ルナは側面からの攻撃を察知した。ルナは後ろに跳ぶかと思いきや群れに突っ込んだ。ルナの直観は正しかった。ルナの背後では彼女の足を掬おうと待ち構えた魔物がいたのだ。

ルナはそのまま死体を踏みつけ、群がる獣を蹴とばして潰して、群れの最後尾に駆け抜けた。


ドン!と群れを抉った黒騎士が土を巻き上げて止まる。リーダーを潰され、狩りの通用しない化け物に魔物は戦意を失っていた。しかしそんなものは彼女には関係がない。

振り上げる振り下ろす。

上げて下ろす。

一切の容赦なく戦闘が、ルナにとっては彼女自身の見せ場が披露された。


僕の出る間もなく数分で一つの群れが壊滅した。


「ルナさん?」


「お姉ちゃん?」


僕が集中を解いて息をつくがミサキとミコトは驚愕の表情を浮かべていた。そういえば二人はルナの戦闘を見たことは無かったな。


「終わりましたよ!ミハエルくん!」


ルナが手を振って駆けてくる。黒の鎧が解けていく様は紙を灰へと燃やすようで、さっきまでの苛烈さが全くの別人のもののように思えた。


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