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13. 北海道を去って羽田→浜松町のジーバ本社ビル

 かすかに煙のにおいを嗅いだ気がして目が覚めた。

 隣のベッドは空だった。

 部屋はすでに明るい。窓が小さく開けられていて、カーテンが風に揺れていた。外でひとが話をしている気配がする。

 わたしは窓のところに行き、カーテンを開けた。真っ青な空。いい天気だ。

 大きく窓を開け、下の庭を見ると、そこに三人の姿があった。そのなかにいるヌイを目にしたとき、わたしは体の火照る感触を覚えた。なぜだろう――。

 三人は地面にあるなにかを中心に向き合っていた。そこからかすかに煙が立ちのぼっている。焚き火? 夏なのに。

「おはよう」

 わたしは三人に声をかけた。

 皆が顔をあげてわたしを見た。

「おはよう。よく眠れた?」

 リセがそう応えた。

「うん。みんなは何しているの?」

「ああ、これ? これはね、〈日読(ヒヨミ)〉っていう儀式。今日一日についての占いみたいなものかな」

「へえ」

 邪魔しちゃ悪いかな、って思ってわたしは窓から離れた。三人の様子を見て、自分もさっさと身支度をしておいたほうがいいように感じたというのもあった。

 手早く顔を整え、着替えをした。

 階下に降りる。

 老人がテーブルに朝食を並べていた。

「おはようございます」

 彼は丁寧にわたしに頭を下げた。わたしも「おはようございます」と返した。

 すでに料理はほとんど並び終えられているようだったので、わたしは老人に、

「みんなを呼んできますね」

 と言って、庭に行こうとした。だが老人はこう返した。

「いや、その必要はないだろう。リセはいつだって準備が整えば黙っていてもやってくるからね。逆に、準備を整えたつもりなのにリセが現れないときは、きまってワシがなにかを忘れておるのさ。用意していた一品を出し損ねているとか」

 ふーん、とわたしが思ったとき、玄関のドアが開いた音がした。なるほど、たしかに老人の言うとおりのようだ。

 皆がどやどやとテーブルについた。

「朝食を食べたらすぐに出発する」

 ヌイがわたしに向けて言った。

「あ、そうなのね。今度はどこに行くの?」

「東京だ」

 わたしの問いにヌイは短く返した。続けてリセが口を開いた。

「悠香さん、あたしたちは旭川空港から羽田行きの飛行機に乗ることになると思うの」

「え、でも、車は新千歳で借りたんだけど……」

「んー、返すのはたぶん旭川でもいいんじゃない?」

 できるのかな、そんなこと。同じレンタカーの支店が旭川空港にあればいけるのかもしれないけど……。

「まぁ、まずは飯をいただこうや」

 思案顔のわたしをよそにモルトが言った。

「いっただっきま〜す」

 そう言ってリセは真っ先に目玉焼きにかぶりついた。


 午後の早い時間にはもうわたしたちは羽田空港の到着ロビーを歩いていた。

 なにもかもタイミングよく物事が進んだ。レンタカーの返却は旭川空港に変更できたし、飛行機のチケットも取れた。

 わたしの脳裏には、リセらの住むあの家を出発したときの、路上でわたしたちの車をいつまでも見送り続けていた老人がバックミラーに映る姿が焼き付いている。それがついさっきのことのように感じられた。

「ねえ、こんどはどういう道のりになってるの? 行き先」

 わたしはモルトにそう訊いた。

「あ、いや……」

 モルトは言葉を濁す。その態度をわたしが訝しみかけたとき、リセが言った。

「じゃあ、その話をしましょう」

 先頭を歩いていたリセが振り向いて、その場に立ち止まった。必然的にみんなの足も止まる。

「あたしたちは、まず、ジーバの本社ビルに行きます。悠香さんは知ってるのよね、そのビルがどこにあるのか」

 ジーバ? なんでいきなりそんな会社の名が出てくるの? そりゃたしかにわたしは仕事で行ったことがあるから場所はわかるけど……。

 意外なことを言い始めたリセに困惑しながら、わたしはこう返す。

「え、ええ、もちろん。ジーバ本社は浜松町にあるけど。でも、なんで?」

「説明はあと。どうやって行くの?」

「ここからなら、ちょうど、モノレール一本で行けるけど……」

 そうわたしが口にした途端、ヌイとリセは踵を返し、スタスタと歩き始めた。頭に疑問符を抱えたままわたしはそれについていくしかない。モノレールの乗り場はこのターミナルビルの地下にある。おそらくそちらに向かうつもりだろう。

 ヌイはまっすぐに地下へと進むエスカレータに向かった。が、いざ彼がエスカレータに乗る寸前になって横から来た数人の集団がそこに割り込んできた。その集団はいずれも大きなスーツケースを転がしていて、ノロノロと動いた。最初、ヌイは彼らを追い抜こうとしたが、エスカレータの両側をだらしなくふさがれてしまったために、入り口の手前で彼らが進むのを待つしかなかった。

 なにを思ったか、ヌイはエスカレータに乗るのをやめ、その脇に寄って立ち止まった。後に続いていたリセもその隣に行き、モルトとわたしも(わけがわからないながらも)そのそばに立った。

「ジーバに行くのは止めにしないか。これはバッドサインだ」

 ヌイはそう言った。

「ああ、俺もそう思った」

 モルトが応じた。バッドサインってなんのこと? 今の横から割り込んできた人たちのことなの?――わたしの頭には疑問が浮かんでいる。

「わかるけど、〈日読〉では先にそっちに行くことが示されてたよね。そこはやっぱり、いったんはそのとおりに動いてみるべきでしょ」

 リセが反論する。一瞬、ヌイとリセがにらみ合ったが、ヌイが折れた。

「わかった。しかたあるまい」


 向かう途中、ソラヨミに会おうとしているのになんでジーバの本社になんか行くんだろうと、ずっとわたしは考えていた。ソラヨミがその近くにいるとでもいうのだろうか。しかしリセはなんの説明もしなかった。

 その場所に関係があるのは、むしろわたしのほうなんだけど。わたしにとってジーバは仕掛かり中の仕事のある相手だ。だが、そのこととソラヨミの件にはなにも関連が見いだせない。

 浜松町の駅から歩いて、徐々にその高層ビルが視界のなかで大きくなっていった。

 ジーバの本社ビル。

 いかにも日本の製造業のビッグネームらしさを感じさせるオフィスビルだ。この建物がいつ建てられたのかは知らないが、少なくともわたしが生まれるよりも以前からここにあっただろう。

 エントランスから少し離れたところで先導のわたしは立ち止まり、みんなを振り返った。

「それで……どうするの? ここがジーバの本社なんだけど」

 ヌイとモルトはただそのビルをさほど関心なさげに見上げていた。リセだけが眉根を寄せている。

「んー、なるほど……」

 なにがなるほどなんだろう、と思いつつ、わたしは続く言葉を待つ。

「ちょっと入ってみよう」とリセ。

「無理よ。社員の人とアポがないと入れないって。なんか仕事上の用事がなければアポだって取れないし」

「いや、ロビーを見るだけならいけるでしょ」

「それにしたってこんな格好じゃダメよ。こんなの背負ってったら何者かと思われて警備員に止められちゃう」わたしは背中のバックパックを示しながら言う。

「んー、めんどいな。じゃ、あたしとモルトだけで行くわ。確認したらすぐに出てくる」

 そう言うリセを引き止めて説得しようと思ったけど、わたしが次の言葉を思いつくまえにリセはモルトを連れてエントランスに向かってしまった。

 わたしはヌイと一緒にその場に立ったままだ。

「大丈夫だろう。心配はない」

 そうヌイは言った。

 その言葉のとおり、一、二分ほどでリセとモルトは帰ってきた。

「どうだった?」

 わたしはリセに訊いたが、彼女はそれに答えずにこう言った。

「ぐるりと回ってみましょう」

 んー、どういうことよ……歩き始めたリセたちのあとを追いながらわたしは困惑している。

 ビルの周囲のオープンスペースを半周ほどしたあたりでリセはわたしを見た。

「悠香さんはこのビルに入ったことはあるんだよね。ちなみにだけど、エレベータはどんなのだった?」

「え? エレベータ? いや、覚えてない。ごく普通のエレベータじゃない?」

「そうだよね……。まあ、そういうことか……」

 リセの反応を謎に思いつつも、エレベータのことを訊かれたことでわたしは以前にこのビルを訪れたときのことを思い出していた。わたしはジーバの開発標準推進室の篠崎氏と加藤氏に新機能早期適用プログラムの説明をした。

 あ、もしかして――。

「ねえ。少しくらいは教えてくれてもいいんじゃないの? なんでここに来たのか」

 わたしがそう言うと皆は立ち止まった。だが返事はない。わたしは早口になって続ける。

「ここに来たってことはさ、わたしが世界に狙われる理由がここにあるってことじゃないの? 違う? それともソラヨミがここにいるってこと?」

 依然として三人は少し困惑したかの表情でわたしを見ているだけだ。わたしはさらに続ける。

「わたし、ひとつ思い当たることがあった、世界がわたしを排除しようとしている理由について。だからそれをやらないことに決めたの。もしそれが正解だったらヌイにはすぐにわかるんだよね、ペナルティが消えるから」

 そうだ。わたしはジーバの二人にプログラムの説明をしたときに、彼らが発電プラント事業部にそれを使わせようと言っていたことに懸念を抱いた。たとえばもし原子力発電所のシステムにでも新機能が使われてそのせいでなんらかの事故が起きたりすれば世界規模の問題に発生することはありうる。とはいえそんな問題が起こりそうなところに正式リリース前の新機能が使われるなどということは実際にはあり得ないはずだが、それでも、世界規模の問題とわたしをつなぐ線はそこくらいにしか考えられない。だから、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()、と。それはわたしの職権で可能だ――わたしはそう考えたのだった。

 ヌイがわたしを見ていた。いや、その視線はもはや定まっていなかった。その額に汗がにじんでいた――脂汗? 車が飛び込んできたあのカフェの外でヌイが座り込んでしまったときの記憶がわたしの脳裏に蘇った。

 ヌイのひざが折れた。そしてそのまま彼はその場に崩れ落ちた。

「ヌイ!」

 助けを求めるようにわたしはモルトとリセに視線を向けたが、そのときには、ふたりとも今や立っているのがやっとという感じになっていたのだった。

 ――いったい、なにが起きてるの?

 わたしは戸惑いつつも倒れたヌイの横にひざまずいてその様子を見た。どうやら気を失っているようだ。

 彼の額の汗を拭うためにハンカチを取り出そうとバックパックを下ろしたとき、地面にひざをついていたモルトが苦しげに言った。

「悠香さん、なにを決めたのか知らないが、それは取り消したほうがいい……。どうやら逆効果のようだから……」

「え? あ……、そういうこと?」

 つまり、今、三人ともがペナルティをくらってる、ってわけ――?

「わかった――。取り消す、取り消すから……。目を覚まして、ヌイ」

 わたしは弱々しい声でヌイに向かってそう言葉をかけた。

「ダメだ! そのことを頭に思い描いているうちはそれを取り消したことにならない。それを頭から追い払って! 完全に!」とモルト。

 わたしは叫ぶ。

「そんなの無理よ!」

「しかたないわね――」

 そう呟いたリセが意外な素早さでわたしの前にやってきて、ひざをついた。そしてわたしの目の真ん前に両手を伸ばし、その手を、パン! と打ち合わせた。

 その瞬間、わたしはその手から目を離せなくなった。思考も停止する。

「ほうら、あなたはそれを手放すの……、いい子ね……、そう、その調子……」

 リセのその低い声を耳にしながら、その指先が奇妙な動きを続けるのをわたしは凝視している。それ以外のものはなにも見えなくなる。すぐにまぶたが重くなり……


 あれ、わたしはどうしてたんだろ。

 目の前の地面にヌイが横たわっている――なぜ?

 そもそもここはどこ?

「こんなとこに寝かしとくのもなんだから、どこか日陰に連れてこうや。悠香さん、悪いけど足のほう、持ってくれる?」

 そばにいたモルトがそうわたしに声をかけてきた。わたしは慌てて、

「あっ、はい」

 と返事して立ち上がった。モルトがヌイの頭側にまわり、ヌイの脇の下に腕を差し込むようにしてその上半身を持ち上げた。わたしは足のほうにまわって、その両方の足首をつかんで持った。

「あっちの植え込みの脇のあたりの日陰に」

 リセが場所を指示した。モルトとわたしは持ち上げたヌイの体をその場所に持っていく。そっとその体を地面に下ろした。

 わたしはまだ状況を把握できていない。

「どうしてヌイは倒れてたの? 大丈夫なの?」

 そうモルトに尋ねる。

「問題ない。おっつけ目を覚ますだろ」

 それはいいけど、わたしはこうなった経緯がわからず困惑する。周囲を見回す。

「あれ、このビルは……」

 見覚えがある。

「ジーバの本社じゃない。いつの間にここまで来たの」

 おかしい。浜松町の駅からみんなを連れて歩いていたことは覚えているけれど、そこからこのビルの裏手にまで来た記憶がまったくない。

「ああ、それはだな……」

 言いかけたモルトの表情が急に変わった。後ろに誰かがいる? わたしは振り向いた。

 紺色の制服を着た中年の男性がこちらに歩いてきていた。このビルの警備員だろう。やばい、ここはオープンスペースとはいえ、ビルの敷地内なのだ。怒られる程度で済めばいいが、不審者として通報される可能性もある。

「どうされました」

 一番手前にいたわたしに向かって男性は言った。

「あ、あの、友達がちょっと気分を悪くしちゃって……」

 わたしはそう口にする。

「熱中症かなにかかな。こんなとこじゃアレでしょ。警備室のほうで休むかい?」

 ありがたい申し出だ。どうやらいい人のようである。

「あ、ホントですか――」

 わたしはそう言いかけたが、そのとき後ろから声がした。

「いえ、もう大丈夫です」

 ヌイの声だ。

 振り向くと、ヌイが手をついて半身を起こしていた。

 ヌイは手を伸ばし、それをモルトがつかんだ。それを支えにヌイはえいっとばかりに立ち上がった。

「うん、大丈夫みたいだな」

 モルトは笑顔で言った。その肩につかまって立ちポーズをきめつつ、ヌイは警備員に向けて頷いてみせた。

「そりゃ良かった。じゃ、お気をつけて」

 警備員はそう言ってあっさりと踵を返した。

「ご親切にありがとうございました」

 男性の背中に向けてわたしは頭を下げた。それから振り返ると、ヌイはひざから崩れかけそうになったところだった。

「大丈夫じゃないじゃない」

 モルトの肩につかまっていたおかげでなんとか倒れずに済んだヌイだが、「いや、大丈夫だ」と口では言う。

「どこかに行って休も。もうここでの用事は済んだし」

 リセが言った。

 えっ、そうなんだ。いつの間に用事を済ませたのだろう、てか、ここに来た目的はいったい何だったの――。

 わたしには疑問しかないが、それを口にする気にならなかった。


「だいぶ核心に迫ったってことだな」

 出されたアイスコーヒーを一気に半分も飲んでようやく落ち着いた様子になって、ヌイは言った。わたしたちはジーバの本社ビルを離れ、近くをうろついて古びた喫茶店を見つけ、そこでひと休みすることにしたのだった。

 ヌイの言葉にモルトも黙って頷いた。

「核心? ソラヨミが見つかりそう、ってこと?」わたしは訊く。

「いや、そっちじゃなく――」

 ヌイは言葉を濁した。

「そっちじゃなければ何?」

「つまり、悠香が世界から排除されようとしている理由だ」

「えっ⁉︎ どういうこと?」

 そのわたしの反応にリセが口を挟んでくる。

「待って、悠香さん。落ち着いて聞いて欲しいの。さっきビルの脇でヌイが倒れてしまったときのことを悠香さんは覚えていないはず。なぜならあたしがそのときの記憶を封じ込めたから」

 わたしは息を呑んだ。リセに記憶を消すことができるという話は昨晩聞いていたわけだが、それでも実際に自分がそれをされたと知らされ、その衝撃で言葉が出てこなかった。

「そうする必要があったの。あのとき悠香さんはなにかを決断した。なにを決断したのかはあたしたちにはわからない。でもその決断は世界の意図とは沿わないものだったの。だからあたしたちには三人ともにペナルティが与えられた。特にヌイはもう三重に科せられることになったわけだから、気絶してしまった。だからあたしは悠香さんから、その決断に至るまでの数分間の記憶をすべて取り除くことで対処した。悪いけどもそれ以外に手段がなかった」

「そうだったの……」

 でも、いったいわたしは何を決断したというのか――。わたしの困惑をよそにリセは続ける。

「そんなわけだから、この先も悠香さんには慎重になってもらう必要がある。ソラヨミに会うまでは、うかつに結論を出すのは避けてもらわないと」

「うん、わかった。そうする」

 わたしは素直に言った。そして疑問を口にする。

「でも、ソラヨミを探していたはずなのに、なんでわたしが世界から狙われている理由をさぐってたの?」

「ああ、それはね――」

 リセはいったんそこで言葉を切る。それから続けた。

「悠香さんには昨晩、ある夢を見てもらいました。悠香さん自身が、今、必要としている夢をです――もちろんそれは、ソラヨミの居場所を知るための手がかりとするためにね。実のところ、ソラヨミのいる場所は悠香さんだけが知っているの」

「えっ、わたし⁉︎」

「そう。ソラヨミの居場所についての情報はそれを必要とするひとの心の奥底にだけ届くから。そしてあたしたちがその情報にアクセスするには、悠香さんの夢を介するしかない。けど、ソラヨミのことを夢で見るには、なぜ自分がソラヨミに会わないとならないのかという疑問を種として与えないとならない。そのせいでそのふたつは夢のなかで常にごっちゃになる。悠香さんの夢にはジーバという会社の本社ビルが出てきたので、あたしたちはまずそのビルと実際のジーバ本社ビルが一致するかどうかを確認するためにここにきたのだけど、こっちはソラヨミの居場所とは関係なかった、ってわけ」

「それはわたしがソラヨミに会わないとならない理由のほうだった、つまり、わたしが世界から排除される理由にジーバがつながっている、と?」

「でも、悠香さん、そのことは今は考えないで。またさっきと同じことが繰り返されることになるから」

「うん……」

「ちなみに夢に出てきたビルとは一致したのか?」モルトが口を挟む。

 リセは首を振った。

「いいえ、夢に出てきたビルはもっと新しいビルだったし、内装がもっとおしゃれで高級感があった。それと、エレベータがガラス張りで外の風景が見えた」

「外の風景――どんな」とヌイ。

「湾岸エリア。それとすぐ近くを旅客機が飛んでいた」

 リセがそう言うのを聞きつつ、わたしの見た夢なのに自分では全然それを覚えていないということに気づいた。まあ、夢の内容をすぐに忘れてしまうなんてことは少しも珍しくはないけど。

「そのビルにソラヨミがいるということだな」

 ヌイが言う。

「湾岸エリアで飛行機が近くに見えたってことは、羽田空港のそばってことだろうけど、それだけじゃ……」

 わたしが言いかけるとモルトが笑い出した。

「ワハハ、なんのために俺がここにいると言うんだ」

「あ、そうか」

「そろそろ行こう。ヌイ、体調はどう?」とリセ。

「大丈夫だ」

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