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月夜の追走劇 

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真夜中、冷たい月明かりが森を柔らかく照らし出していた。闇に包まれた木々の間を、一人の少女が裸足で駆け抜ける。


「なんでなのよ…っ!私の役目は、もう終わったはずなのに…!」


その声は森に吸い込まれ、反響することなく消えていった。クラリスの異様な気迫を感じ取った小鳥たちは、一斉に羽ばたき、彼女に道を譲る。


「はあ…はあ…!」


乾いた声が無意識に漏れる。足はもう鉛のように重く、ひとつ踏み出すごとに体が軋む。目の前の景色がかすみ、耳元で脈打つ心臓の鼓動がうるさいほど響く。


それでも、止まるわけにはいかなかった。


足がもつれ、膝が折れそうになりながらも、彼女は必死に前を見据える。


背後から聞こえる狂おしい蹄の音が、彼女の鼓動と重なる。振り返ると、黒い馬に跨るアルファンが、猛スピードで彼女を追ってきていた。


彼の後ろには、同じようにクラリスを追う数十頭の騎馬が続いている。彼の表情は険しく、その澄んだ青色の瞳は、まるでクラリスを逃がすまいとするかのように彼女を射抜いていた。


彼の金色の髪は月光を浴びて輝き、その美しさはどこか儚げで、この世のものとは思えないほどだ。しかし、今の彼女にとって、その美しさはもはや恐怖でしかなかった。


(今さら、なんでしつこく追ってくるのよ…!こんな森の奥深くまで…!)


内心の焦りが言葉になり、クラリスは思わず舌打ちをした。彼女の目に浮かんでいた涙が、冷たい風にさらされて頬を伝う。


逃げる理由はただ一つ。(アルファン)に再び会うことだけは避けたい。それが彼女の全てだった。


アルファンは、この国の第一王子であり、クラリスが命を懸けてまで愛した相手。そして、彼女を憎み、さらには投獄さえした夫でもある。普段はまるでゴミでも見るかのような冷たい目を向けていた彼が、今日はどこか様子が違っていた。


「待ってくれ…!君と話がしたいんだ!」


普段は圧倒的な自信に満ちている彼の声が、今は頼りなく震えていた。その変化に、クラリスの心は戸惑い、怒りに変わっていく。


(何なのよ…!いったい、何が目的なの?)


今すぐにでも叫びたいほどの苛立ちがこみ上げてくる。しかし、それを押し殺して走り続ける。彼女はただ、自分の役目が終わったことを信じたかった。


(お願いだから、もう私を放っておいてよ…!)


それが、クラリスの心からの叫びだった。彼女は今でも、胸が張り裂けるほどの痛みを覚えていた。彼を救いたかった過去の自分、その思いが今も消えることなく彼女を苦しめている。


しかし、突然、右腕が後ろから強く掴まれた。バランスを失ったクラリスは、驚きと共に振り向いた。そこには、いつの間にか馬を降りたアルファンが立っていて、彼女の腕をしっかりと掴んでいた。


「いやっ…!やめて!」


彼の手を振りほどこうと必死に抵抗するが、彼はさらに力を込めて彼女を離そうとしない。


「クラリス…お願いだ、私から逃げないでくれ。」


「何を今さら…」


その言葉が口をついた瞬間、クラリスはこみ上げる涙を抑えることができなかった。視界が歪み、涙が溢れ出す。


「…ッ…まさか、泣いているのか?」


アルファンの声が耳に届くと同時に、彼の腕が彼女の背中に回り、強く抱きしめられた。その力強い抱擁に、クラリスは全身が震えた。


(もう…あなたのことで傷つきたくないの…。お願い、離して…)


彼女の心は抵抗しても、身体は力なく震えるだけだった。


「クラリス…?!」


アルファンが彼女の名前を呼ぶ声が遠くに聞こえた気がしたが、その声は次第にぼんやりとし、霧がかったように視界が歪んでいく。


やがて、黒い幕が目の前に降り、クラリスは何も見えなくなった。そして、彼女は意識を失った。


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