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09/変幻のイヤーカフス

翌朝、朝というには遅く、昼というには早い時間に目が覚めた。

あくびを噛み殺しながら部屋を出る。


「坊ちゃん、おはようございます。朝食はどうなさいますか」


「果実と牛乳はあるか」


「お待ちします」と取りに向かう使用人を横目にぼくは食堂ではなく居間へ向かう。居間にいた使用人に「ルレイアは起きてるか」と尋ねる。


「ただいまお連れします」


「どんな感じだ」


「なんというか、猫のようですね」と苦笑していた。


少し申し訳なくなってきたが、まぁ仕方ないか。

どの道、数日はここに泊まるのだ。慣れてもらうしかない。


切った果物と牛乳を運んできたのシーラだった。


「レガート様からです」


と紙を渡される。

手紙、というよりはメモに近い。メッセージは完結で短かった。


兄上が迎えの馬車をよこしてくれるらしい。


「読んだか?」


「日暮れ前には迎えに来られるそうです」


「この分だと夕飯は兄さまのところだろう。支度はしなくていいよ」


「かしこまりました」


しばらくすると、おどおどとしたルレイアが入ってくる。


「おはよう。朝食はとったか?」


「い、いただきました」


「よし、じゃあ、買い物にいくか」


「買い物ですか」


「服とか買わなきゃならんだろ。ほら行くぞ。なにをキョロキョロしている」


「あ、あの……」少しうつむく。何かを、誰かを探すようにしたあと。


「わたしのローブマントがありません」


小さな声だった。


着ていたものはどうしたのか尋ねると使用人から洗いに出してると答えがあった。

人がたくさんいる王都でもエルフの見た目は目立つだろう。

彼女が不安になる気もわかる。


明らかに落ち込んだ顔を見て思い出した。


「ほら、これをつけろ」


昨夜──というより今朝方に完成したものを渡す。

小箱を開けると入っているのは、ぼくのつくったイヤーカフスである。


「これは──」


「ぼくのつくった魔導具だ。そうだなぁ、”変幻のイヤーカフス”とでも名付けようか」


指でつまんで箱から出したカフスを見ている。

角度を変えて眺めているので、興味津々といったようだ。


驚くのはこれからだ──ぼくは心の内で笑う。


「誰か鏡を持ってきてくれるか」


使用人が姿見を持ってくる。手鏡でよかったのだが。

どうもぼくは言葉足らずかもしれない。気をつけなきゃならん。


「つけかたはわかるか」


「はい……あ、耳が」


イヤーカフスをつけた方の耳がエルフの尖った長い耳から。人のそれと変わらないように変わる。


「え、どうして……」


「そう見えるだけだ」


元のカタチを消して、違うカタチのものを視せる効果。

幻影──ただの変装である。


「それで少なくとも見た目は変わるだろう。髪の色や目の色も変えたきゃ言え」


耳につけて耳に効果範囲を設定しているが、髪留めを使えば髪色を変えたりできると思う。


ブンブンと音がなりそうなぐらい首を振ると、角度を変えて見た目が変わった耳を見ている。

ぼくはそれを満足そうに見ている。どうやら喜んでいるみたいだ。


「見えんがそこにはあるからな」そう言って何もない空間──つまり、あの尖った長い耳があった場所をつまむと、ちゃんと耳がある。


「キャっ」


小さな悲鳴をあげて後ずさる。片手で耳を覆うように。


「あ、いや、ごめ──」


「何をなさっておいでですか?」


ぼくの言葉をさえぎったシーラは、ぼくの真後ろで冷えた声を出した。

シーラに説教をされたあと、ぼくらは買い物に出かけた。


行きつけ、というほど通ってはいないが、先生がよく利用していると言っていた店にまずは行った。


革の手帳を買う。魔力がキーになっていて持ち主だけが開けるタイプ。

大きさが何種類かあるのだが、何種類かを購入する。

ぼくは白に青のラインが入ったものを、ルレイアは真っ赤なものを選んだ。


基本的に他人の手帳は見ないこと、自分の手帳は見せないことを約束させた。


次に服を買いに行った。

よくわからんので使用人に案内させて、あとは頼んだ。


作業着と普段着と寝巻きと下着に肌着か。

よくわからないから、好きに多めに買っておくように伝える。


ついでに使用人にも何か買ってもいいと伝えて金を渡した。


一着か二着ぐらいは正装──ぼくの家族や他の貴族に会うとき用のものを用意してもいいが。ま、今日じゃなくていいか。


「錬金術師を目指すなら、いや、ぼくの弟子になるならまずは清潔を心がけろ」


ぼくの言葉ははしゃぐ使用人にかき消され、ルレイアは引きづられるように連れて行かれた。


女の買い物は時間がかかるだろう。

目をキラキラさせたメイドたちと不安そうなルレイアをみてぼくは一つ嘆息した。

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