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07/弟子②

──だからこの女に預けたんだが、ね。


と、師匠が言うと先生は嫌な顔をする。


こうして彼女の事情をきく。


ぼくが通っていた王立魔導学園は試験がある。

そこの試験にギリギリ点数が足りなかったこの子を無理矢理ねじ込んで入学させたらしい。


単純に学力もそこまで高くないのだろう。


王立魔導学園に入れて数日、暴力沙汰を起こした。

見た目がまんまエルフの少女に目をつけた貴族の少年が無礼を働いたらしい。


それでぶん殴った。


結果、学園に入れなくなった。

先生が手を尽くしたけれども。退学は免れなかった。


で、だ。


なんとも嫌なタイミングで二人とも仕事が入った。


「わたしたちも王都を出ることになってね。半年から一年はかかる大仕事だ」


「国から言われちゃったから、断れないのよ」


わかる。

話としてはわかるのだが、納得できるかは別の話だ。


弟子をとるのが嫌なわけでない。

なんというか、素養なしの彼女は居場所がないのだろう。


それをたらい回しにしているのが、単純に気に入らないのだ。

自分を重ねてしまったわけではないけれども。


ぼくの恩人たる二人がそれをしていることが腹立たしい。


エルフの血を引きながら、見た目はまんまエルフなのに。

エルフではないと言われ続けた。


それもエルフしかいない集落で。


ちらりと少女──ルレイアを見ると、膝の上で強く手を握っている。

それがあまりにも不憫で。


「いや、連れて行って一から教えるか、ぼくの他の弟子がいるでしょう」


「クローディア、レイハ、シーの三人は連れていく。アマデウスは王都でわたしの代わりの仕事をしてもらうことにした。アマデウスでも素人の面倒をみながらわたしの代役は無理だろう?」


師匠があげた四人はぼくの先輩にあたる師匠の弟子であり、名の知れた魔導師や錬金術師だ。

ぼくが会ったことがあるのは、クローディアさんとアマデウス──いや、アマリリスさん。

二人とも師匠の弟子らしくちょっと変わった……いや、イカれた人だ。


先生を見ると

息子であるビショップさんとその奥さんのミネルバさんを連れていくとのこと。


ぼくは二人の名も知っていた。

有名な王城の魔導師である。


「……国の仕事、と、言いましたね?戦争でも起こす気ですか?」


「遺跡の調査、になるが、まぁ、それなりに危険かもな」


「……やっぱり、どこか、なにか、気に入らないですね」


「金をやって誰かに面倒を──とも思ったんだがなァ。解決できないだろう?金は人を狂わすし。そもそも他人は信用できんしな。そこで、お前だよ、ソナタ」


ぼくは答えない。


「まぁ、いい。ネタばらしといくか」と苦笑を浮かべた師匠は。


他言無用だ──と念を押す。


「──見つかった遺跡の下にダンジョンができているんだがな、問題はダンジョンの更に下にある」


「──龍が眠っているのよ。おそらく古龍種ね」


古龍種なら、目覚めたらちょっと周囲が滅ぶレベルのとんでもないやつじゃないか。


それでも、ぼくは答えない。


「元はわたしが引き取ろうと大森林から呼び出したんだ。あそこにいたら、まぁ、長生きはできんだろうし。その責任をお前たちが負えというのなら、確かにその通りだ。わたしは調査にいくのをやめたっていい」


「バカなことを言わないで。国からの命令なのよ」


「イザベルともあろう女が、わたしが誰か忘れたか?国からの命令などバカらしいから王城勤めを辞めたんだ」


そして獰猛な笑みをみせた師匠は。


「わたしに命令できるのはわたしだけだ」と断言した。


勝ち誇った顔でぼくに答えを求める。


「──っ」


師匠に言われたら拒否権などないのだ。


そうは思うのだが、この少女は、ノヴィア・ファランドールに教えて欲しいのではないか。


少女は答えない。


ぼくが答えを口にしようとした時。

かすかに、それでも、たしかに聞こえてきた言葉は、とてもか細く。


そして、絶望していた。


──どうせ捨てるなら拾わなきゃいいのに。


頭に来た。

我を忘れて怒鳴り散らしてやろうと思った。

が、その瞬間。


「待ちなさい、ソナタ。遺跡が見つかったのはぺザンテ領なのよ」


先生は静かにそう言った。


ぺザンテ。

ペザンテ領と言ったか。


あぁ、そこはダメだ。

だって、そこには。


アリア姉さまがいる。


「やめろ、それは言わない話だったな?」


「あなたが馬鹿なことを言い出すからよ。それにすぐに伝わるわ。そもそも、このやり方にわたしは賛成していないもの」


揺らぐ。


座っているのに、グラグラと。


すっと、師匠の両手が、ぼくの頭を掴む。

真っ直ぐ、ぼくを見つめている。


好戦的で、獰猛で、かっこいい。

いつもの師匠じゃなく。

どこか優しく見えた。


「──普段は国の命令なんか面倒だから聞かないんだがな」


「……はい」


「わたしがわざわざ行ってやるんだ。安心していいぞ」


「……はい」


ぐらぐらと揺れた思考が落ち着いてくる。

全部、飲み込んでやれ。


「だから、お前が面倒を見てやれ。おまえの選んだ生き方を教えてやれ」


「……もう、大丈夫です」


ぼくはルレイアを見た。

不安そうなに瞳が揺れている。


「ルレイア、といったね。ぼくはこの通り未熟な、片羽の錬金術師だが、君がよければ、ぼくの弟子として来るか?」


そっと手を差し出した。


「ぼくが、君がノヴィア・ファランドールから教えを受ける機会をふいにしたのだ。その責任はぼくにある。だから、君にぼくの持つすべてを教えてやる」


碧い瞳が揺れながらぼくを見つめていた。


「その気があるのなら、それで構わないのなら、ぼくの手をとれ」


──こうして、ぼくに弟子ができた。

ぼくと同じ片羽の少女だ。


「……弟子が成人して店を出す。もう一人前か、って言ってたけれど子ども扱いしてるのはノヴィア、あなたよ?」


「耳が痛いな」と新しいタバコに火をつけた師匠はどこか恥ずかしそうだった。


「──そうだなぁ、一つお前にアドバイスをしておこう」


紫煙を吐きつつ師匠は言う。


「信頼があれば洗いざらいぶちまけた方が上手くいくこともあるぞ」


師匠と先生は笑い。

ぼくは笑わなかった。


少女は。

ルレイアは、ぼくの手をとり、言った。


「わたしはファランドール様ではなく、あなたに教わりたい」


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