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03/片羽の錬金術師①

成人祝いに家をもらった。

たかが15才が成人というのはどうかと思わなくはないが、早く家を出たいと思っていたから都合良くはあるのか。


朝方にベッドに入ったせいか、結局、昼を過ぎてから目が覚めた。

深夜のテンションは危険すぎる。


騎士たちのどこか生暖かい視線は軽くイラついたが、仕方ない。

かっこよかったんだけどな、塔。


まぁ、騎士なんてのは大概が脳筋の野生児である。

ぼくのセンスが高すぎたということにしよう。


模型と設計図を色々と弄り回すとようやく及第点。

すっかりと日が落ちそうな時間だった。


半ば呆れ顔の護衛騎士たちを黙殺し打ち合わせをする。

ぼくの設計図と模型は大工の親方たちには好意的に受け取られたらしい。

住居スペースは一月もあれば完成するようだ。嬉しいことである。


翌日、王都へ向かうため、オウルを出た。

これから、また何日も馬車に揺られなきゃならないのは辛いものがあるが、仕方がない。


王都──師匠のところへ挨拶をしてから今まで使っていた工房を引き払わなきゃならないのだ。


ま、これまたよくある話なのだが。


幼い頃、四大魔法の素質がまったくないとわかったぼくは頭を抱えた。

本当に途方に暮れた。


それこそ何日間も書庫にこもり、この世界の魔法について片っ端から調べまくったのだが、結果、ぼくには四大魔法は使えないことが理解っただけだった。


前世の記憶がある──いわゆる転生した身としては。


せっかくだから、使いたかったのだ。

魔法が。


当然、使えると思っていたのだ。

魔法が。


適性のあると言われていた精霊魔法に関しても手掛かりは掴めずにいたし。

そもそも精霊を見たという人間は誰に聞いてもいなかったのだ。


ずっと精霊とコンタクトを取ろうとして家族や使用人たちから白い目で見られていたこともある。


そんな風に一度挫折し、絶望したぼくだった。

けれども。


見つけてしまったのだ。

知ってしまったのだ。


四大魔法以外の魔法を。


馬車に揺られながら設計図を眺めると、自然と口角が上がってくる。


「お屋敷に寄って行かれますか?」


「……いや、いい。真っ直ぐ王都の屋敷へ向かってくれ」


「よろしいので?」


「まずは師匠のところ、次に先生だ。きちんと挨拶しなきゃならん。性格はともかく、あの二人はぼくの恩人なのだ」


「師匠というと、あのノヴィア・ファランドール様ですか……」


「そうだ。それからイザベル・フローレンス先生だ」


「あの大魔導士ノヴィア様の弟子になるとは……どうやったのです?」


「──少し眠る」


ぼくは話を切り上げて目を閉じた。

眠いわけではなかった。


手から火を出すだけが魔法じゃあるまいし──そう気づいたのは、いつ、だったか。


魔法というより魔術のようだな──確かそう思ったのだったか。

素養なしが魔力でできることを家庭教師から色々と教わる中、確かそう感じたと思う。


10才から王立魔導学園へ入ったのは精霊について調べたかったからだ。

精霊魔法と何かもわからず。

精霊とはどこでどんな風に何をすれば会えるのか。


それを知りたかった。


イザベル先生はいわゆる教頭先生のような立場の人だった。

深い知識と広い交友がある女性で、なんというか、年齢は結構いってると思うのだが、どこか可愛らしい人だ。


ぼくが精霊について尋ねると、自身はないが精霊に会ったことがあるという人を知っているという。

ぼくの素養なしは知っているはずなので、精霊魔法の素質があること。

精霊とのコンタクトに幼い頃から失敗し続けていること等を話し、紹介して欲しいとお願いした。


忘れもしない。

師匠であるノヴィア・ファランドールと会った日のことを。


開口一番、彼女は言った。


「お前が噂の賢くて馬鹿な子どもだな? 安心しろ。お前のやり方はたった一点を除いて正解なんだ。ただ、その一点が致命的なだけさ」


大きな声で、嬉しそうに。

獰猛な笑みを浮かべた彼女は──。


「祈りを捧げ、魔力をこめて、問いかける。ひたすら真摯に。信じて、歩み寄る。それは精霊とコンタクトをとるためには必須なことさ」


「でも、ぼくに応えてはくれませんでした」


「当たり前だ。台所に精霊はいるか? 花壇や花畑にいるか? お前の近くにいたのは精霊じゃない。妖精だ‼」


言われて初めて気が付いた。ぼくは精霊と妖精をごちゃまぜに考えていたのだった。


「悪戯好きな妖精たちがお前の前に現れなかったのは、お前の祈りが真っ直ぐ精霊に向けられたものだったからだ。安心しろ。私もお前が気に入った。お前にすべてを教えてやる」


──目を開けて呟いた。


「……こんな話は誰にもできんわ」


「なんです?」


「いや、もう少し眠る」


王都はまだ先である。

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