27/掘り出し物を探そう
薬師ギルドのばばあが持ち込んできたものは、市からの仕事だった。
毎年、流行する流行風邪──熱病に対する解熱薬製作の仕事でギリギリプラスの安い料金で市と契約することになった。
それから数週間、ぼくの生活は相変わらずだった。
もちろん、不定期で入ってくる薬草で解熱薬は作っている。
が、おそらく発注は色々な所に分散しているのだろう。
ぼくの所に来る薬草は大した量じゃないので、意外に時間には余裕がある。
日焼け止めや虫刺されの薬の代わり、解熱薬製作をしているわけだから、当然といえば当然である。
「──で、いつ頃になりそうですか」
「……なんの話だ?」
今日もシーラの眉間のしわは深い。
「いや、市長に頭を下げさせるとおっしゃっていたじゃないですか」
「あぁ、あれか。あれは……ひとまず保留だ」
「保留ですか」
「まぁ、ひとまずな。ぼくも有能であるが万能ではないからな。無理なものは無理だ」
「無理ですか」
「ひとまずは、な」
冒険者ギルドから取り寄せた素材リストを眺めて数日でぼくは新しい解熱薬の製作を中断している。
簡単に効果的なものが作れたら苦労はない
やはり歴史が違うのだ。
新解熱薬の開発は中断し、ひとまずは体力作りである。
体力作りに関しては、そろそろ合格ラインに届きそうである。
色白のもやしっ子はようやく卒業である。
ぼくが指導をお願いしている冒険者パーティのリーダーは意外とスパルタだった。
なんせ自身のパーティメンバーの魔法使いにも体力作りを義務付けているほどだ。
体力作りは中々に大変だった。
基本的には跳んだり跳ねたり走ったり……。
あと、走ったり、走ったり、走ったりだ。
森の中で冒険者パーティとルレイアと色々とギリギリな鬼ごっこばっかりやらせられていたからしっかりと体力はついた。
そうしていよいよ待ちに待った日がきた。
「……はァ……はァ……なんで、あいつは、あんなに元気なんだ……?」
いつものように鬼ごっこが終わったのち軽戦士と打ち合いを始めるルレイアを見ながら呟く。
ぼくと共にぐったりしている魔法使いが呆れた声をだす。
「この男はね、魔法使いの、アタシですら、延々と走らせるのよ」
「だから、魔法使いが魔力が切れたら戦えない。終わりですってのは命がいくらあっても足りないんだって──ねぇ、若様、死線の先、ギリギリの所で生き残るには、結局は自身の体力がモノを言うんですよ」
はっはっはっは──と涼しげな顔で高笑いをするリーダーは物静かでどこか品のある脳筋だった。
結果、ぼくとルレイアの基礎体力は十分という判断がくだされたわけである。
「若様、次回からは体力作りの後に武器の取り扱いをお教えします。何か用意をしておいてください」
「あぁ、アルガスと相談しておく」
そんなわけで武器である。
小さい頃に使っていたものはすべて持ってきている。
なんというか、これでも大貴族の生まれである。
節目節目で剣や槍やらの武具を送られてきた身である。
それなりに高価なものであるのだろうが、実用性に関しては正直よくわからない。
父や兄、祖父などから送られた武具を一通り引っ張りだすと思い入れのある物は埃を払って再び仕舞うことにした。
「アルガス、この中で実用に耐えるものを見繕ってくれ。後でルレイアを呼んで選ばせるから」
「よろしいので」
「倉庫に置いたまま、埃にまみれて錆びさせるよりはいいだろう。大事なものは除けてあるから遠慮はいらん。本人が気に入ったものを一振り。もう一振りはルレイアに向いているものをお前が選んでくれ」
「それはよろしいんですが、若はどうなさるので」
「これでも背が伸びたし力もついた。子どもの頃のものは合わんだろう?武具を扱ってる店はオウルにもあるだろう」
更に数日が過ぎ。
ぼくは街の外れにある武器屋にルレイアと共に来ていた。
所狭しと武器が並んでいる。
どこか薄汚れた店舗だが、品揃えは悪くない。
金属と微かな油と錆びの匂い。
「お前はどうする?」
「わたしは立派なものを頂きましたから」
ニコニコとしたルレイアの腰には魔法銀でできた小ぶりの細検を佩いている。
簡単に言うと短めのレイピアといったらいいだろうか。
嬉しそうに左手で細剣を撫でている。
「そういうことならいい。今回はぼくの武器を選ぶわけだが……あそこに樽があるだろう?」
「訳アリ品ってやつですか」
「そうだ。あそこにはおそらく未知の可能性がある」
「掘り出し物ですか」
「そうだ。あの訳アリの売れ残り品に片っ端から魔力を流してみろ。通り易いものと全く通らないものを覚えておくんだ。あとでぼくが確認する」
ここのセール品は冒険者が売った武具が多分に含まれている。
その中でも稀少な金属が含まれているものが狙いである。
そこから希少な金属を抽出する。
抽出した金属としてぼくの武器を作る。
金属同士を混ぜて、新しい金属を作る。
その金属でぼくの武器を作る。
これが目的である。
そう、これでもぼくは錬金術師なのだから。




