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24/流行風邪対策会議①

北方に秋がおとずれた。


ケアクリームの販売が始まり、体力作りやら、思いつきで作った魔導具の実験やらで中々に忙しい日々を送っている。


騒がしさで目が覚めると客がたくさん来ていた。


どうも今後オウルで──いや、ガリア領で商売する上では知っておかなければならないことらしい。


薬師ギルドのばばあを始め、それなりの人物たちと仕事の話をする。


「──まぁ、今、言った通り、ぼくはまだ食事をとっていないんだ。話は聞こう。できるなら、なるべく手短かにな」


シーラとばばあの冷めた目は無視してぼくは続ける。


「シンプルにいこう。ぼくは何の薬をどのくらい作ればいい?」


「薬ですか」


「違うのか」


「私に訊かれても……」


困惑するシーラは珍しいが、ぼくは空腹だった。ノドも乾いている。

さっさと話を進めよう。


薬師ギルドのばばあ。

薬草問屋のじじい。

それに医者の男。


そうくれば、これは薬の話だろう。

冒険者ギルドの職員は薬草の採取を請負うのだろう。


あとの数人はわからんが。

そのぐらいはわかる。


わかるけれども、果たしてぼくが必要かというと疑問が残らなくもない。


「違うか、ばばあ」


「違わないよ。そんだけ察しが良ければ、舐めた口をきかなくても上手く立ち回れるだろうに……こりゃあ、ろくでもない師匠のせいかねぇ」


「師匠は関係ない、こともないか。ま、ぼくなんかじゃ、あの人には遠く及ばないがね。あいにく、これは、ぼく自身の性分だ」


苦々しい顔のばばあにドヤ顔を決める。

と、ここまではお遊びだ。


じゃれあい。

茶番劇。


いわゆるコミュニケーションの一種である。


「で、ぼくは何の薬をどのくらい作ればいい?」


ばばあは嘆息を一つ。

それからあごをしゃくって見せた。


隅にいた長身の痩せた男が近づいてくる。

まだ若い30代前半ぐらいか。

どこか疲れたような顔をしているイケメンである。


清潔感のある身なりでどこか神経質そうに銀縁の眼鏡を押し上げながらぼくの目の前へ。


「これを」


差し出されたのは粗いつくりの冊子だった。少しくたびれた冊子に目を通していく。

北方に自生する植物──薬草を使った調薬レシピである。


「……ふむ。この調薬レシピは……あぁ、一つじゃないのか……いや……あぁ、なるほど……ふむ」


数種類の調薬レシピを目で追っていく。ぼくの使ったことのない薬草でのレシピはとても興味深い。


「このレシピは北方では割と知られているものだから、それはそのまま差し上げますよ」


「ありがとう。なるほど、非常に興味深い内容だ」


「いいや。悪いが一つ、その、君を試してもいいかな。そこには書いてないのだが、効能はわかるだろうか?」


「うん?」


「そこに書かれている四つの調薬レシピの効能だよ。どれか一つでもいい」


見上げた先の男は無表情でどこか冷めた目をしていたが、ジッとぼくを見ている。

どこか気まずそうな雰囲気だった。


「ぼくはあなたを知らんのだが。まずはあなたが誰か聞いても」


「これは失礼した。私はレイナルド・バッツ。錬協所属の錬金術師をしている」


錬協というのは正式には錬金術師協会で師匠が小馬鹿にしている組織である。

ぼくは錬協に属していないので、よく知らないが、ギルドと同じようなものである。


錬金術師たちの管理や仕事の斡旋、資格、ランクの付与などを行う機関である。


ぼくは国家資格を持つので、協会には属していなくても錬金術師として活動できるのだが、国家資格がなければ錬協に入るのがいいと言われている。


「錬協の術師か。へぇ、じゃあ、このレシピを使うのなら、ぼくも入った方がいいのか」


「は?」


「錬協だよ。あまり詳しくは知らんが、所属というのならこの街にもあるのだろう」


「いや、やめた方がいい。君は国家錬金術師なのだろう?入らない方がいいと思う。私みたいな国家錬金術師になれなかった者たちの組織だからな。そもそも、そのレシピは無料だよ」


「そうなのか」


「錬協に入れば便利なこと──利益はもちろんあるが……同じくらいしがらみが増えるぞ」


そう言って苦笑するその表情は、やはりどこか疲労感が出ていた。

その見た目で、冷たい印象を受けたが、実はいい人なのかもしれん。


「しがらみ、は困るな。ぼくは中々に忙しいんだ」


ぼくが真顔で答えると彼はやはり苦笑するのだった。


「やめときな(ぼん)。国家資格持ちが錬協に入っちゃまずいわけじゃないが面倒事を増やされちゃ困るからねぇ。それよりも、そのレシピの効能だが──」


「あぁ、全部、解熱薬だろう?」


「正解だ。雪が降るまでの間、できるだけ多くの解熱薬が必要なのさ」


解熱薬──熱冷ましができるだけ多く必要だということは、やはり面倒ごとである。それも他人事にはできないタイプの。


「──できるだけ多く? その言い方では、まるで、熱病でも広がるみたいではないですか」


「そうさ。北方には、秋から冬にかけてとある流行風邪があってね──」


シーラの疑問に、ばばあは真顔で答えると、流行風邪の話を始めたのだった。

流行風邪というが、症状の大部分は高熱であるらしい。

疲労感や脱力感の他、頭痛や身体の節々に痛みが出ることも多いという。


「これにかかると子供と年寄りは死んじまうことも多いし、何よりこれは人からひとへ感染(うつ)るんだ。看病してるほうがかかって死ぬこともある」



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