23/秋と「」のおとずれ
秋に向けて日焼け止めや虫よけ、虫刺されの薬に代わる新商品の開発は、なんとなく中断したまま、思いつきで新開発した付与の魔導具の性能実験の成果は上々だった。
色々と試してみなければならないが、性能としてはまずまずだ。
相性がいいのは属性付与で、一撃に効果を上乗せかな。
風魔法で加速効果。
矢だけじゃなく剣に付与しても発動できるのはデカい。
実験での発動効果時間はせいぜい十数秒だが、魔力量を増やすか、魔石を使えば伸ばすことができる。
属性を変えて繰り返し使えるのは利点である。
実際の戦闘中にそれができるかどうかは微妙な気がするが。
使い所はやはり限定的になるが、これは使える部類の魔導具でいいはずだ。
大まかに所感をメモっておく。
昼食をとると魔導具いじりはやめてポーションつくりのための薬草の下処理だけ終わらせておく。
なんといっても冒険者たちに会うのだ。
ぼく自身、冒険者になるという選択肢は転生に気づいた時からなかったが、やはり会いたくはあるのだ。
たとえ、ぼくが無双できるほどの魔法が使えたとしても、冒険者にはならなかったと言える。
そりゃあ、ぼくだって清廉潔白な人生を送ったとはいえないけれども。
シンプルに向いてないと思うのが一つ。
生き物を殺すのも、殺されるのもごめんだというのが一つ。
四名の冒険者が来たのは昼頃である。
ランク的には中堅で、冒険者歴でいえば十分にベテランの域にいる四人は人となりもよさそうだ。
リーダーの剣士は物静かでどこか品があったし
その妹が斥候兼軽戦士。
リーダーの幼馴染が斥候兼弓士で元は狩人の家で生まれ育ったらしい長身の男。
魔法使いは火力不足を補うために最後にパーティに加入した。らしいが、加入してから既に十年近く経っているので特に連携に不安もない。
リーダーの剣士は元は男爵家だか、騎士爵家が没落したのちに冒険者になったという。
いいパーティだと思う。
斥候の技術と魔物との戦い方を教わる代わりに、工房側の住居スペースの利用を許可してやった。
「……そうですね……まずは技術よりも基礎体力をあげて頂けますか? 話はそれからかと思います」
辛口、とは思わない。
基本的に引きこもりのぼくにはまずは体力が圧倒的に足りなかったのだ。
まずは体力作りから始めることにした。
ま、子犬の散歩程度の運動では足りぬことがわかっただけで良いとしよう。
そして。
いよいよ秋が来た。
まだ本格的な寒さとは無縁であるが、朝夕は冷える。
風の質が変わった、というべきか。
ともかく、秋がきたことは確かだった。
いよいよ、売り出されたハンドクリームは好調な滑り出しで売上をのばしている。
ペザンテ領にいる姉さまからもお礼の手紙が届いた。
また、ガリア候へは定期的にドッグフードの納品をしている。
さらに合間を見つけて体力作り。
益々と、ぼくは忙しい。
そんなある日である。
騒がしさで目が覚めた。
ぼくが寝たのは朝方だったのだけどな。
なんというか若干神経質なところがあるのか、こうなったら眠いが寝れないのだ。
ぼんやりとした頭で部屋を出る。
「おはよう、ソフィー。なんの騒ぎだ」
「ああ、おはようございます、若。今、起こしに行こうと思っていたのですよ」
「ん。で、何の騒ぎ?」
「お客様がたくさんいらっしゃってます」
「お客様、ね。誰かを招いた覚えはないんだけどなぁ──」
ぼくは呟いて、あくびを一つ。
「──ま、いいか。お茶となにか食べるものをもってきてくれるか」
歩き出して気づいた。
たくさん、と言ったか。
嫌な予感がするが構わずドアを開ける。
まず目に入ったのは薬師ギルドのばばあである。
隣には薬問屋のじじいもいる。
奥には冒険者ギルドの職員が二人。
そろいもそろって暇人ではなさそうだが。
清潔感のある身なりのいい老紳士は確か医者じゃなかったか。
それからあとの数名はまるで心当たりがない。
はて──と、ぼくは首を傾げた。
「──わざわざ大人数で押しかけてきたってことは、なにか緊急事態か?」
「ふん、ようやく起きてきたか寝坊助め」
ばばあ──薬師ギルドを仕切る女傑である。
ビジュアルは完璧に“スタンダードタイプの魔女”で、異様に眼光が鋭い。
が、口ぶりはどこか軽いため緊急事態ということはないだろう。
「客前に来るっていうのに、なんだいその寝ぼけたツラは。ちゃんと洗ってきたんだろうね坊」
「客というのなら、ちゃんと店舗側で待っていろ、ばばあ。こっちはスペースは身内用だ」
ぼくは椅子に腰をかけながら周りにいるシーラ達に向かって言う。
「わかったな、お前たち。次からは中に入れなくてもいいぞ。店側で立たせておくか出直すよう伝えろ」
「相変わらず達者な口だねぇ……あんたらが甘やかすからこうなるんだ。あまり甘やかすんじゃないよ。甘やかされて育つのはなんでも思い通りになると思い込んじまう馬鹿だけさね」
「うちの若はそのような馬鹿ではありません──」
呆れた声で放った流れ弾を受けたのはシーラだった。
意外に強気で好戦的だったりする。
「──まぁ、最近売り出し中のケアクリームの改良やらで忙しいのですよ。寝る間を惜しんで働いておられますから」
眉間のしわを消して軽くドヤ顔でチクリと軽く一刺しするのも忘れない。
一瞬苦い顔を見せるばばあ。
本来ならケアクリームの領分は薬師ギルドである。
貴族の事業に下手な横やりは入れんだろうが一枚嚙みたかったに違いない。
「ふたりともその辺にしておけ」
薬問屋のじじいが割って入る。
「なぁ、坊。お前さんがこの先もガリア領で商売を続けるなら知っとかなならんことがあってな」
「なんだそれは」
オウル、ではなくガリア領ときたか。
緊急事態ではないが面倒ごとではあるらしい。
「いやいや、そう身構えなくてもいい。これは北方はガリア領では必要なもの──そういう仕事の話だ」
「仕事、ね。なるほど大人数で押しかけてくるほどの仕事の依頼か」
どうしようか。
言いたくないがすごく気が乗らない。あまり聞きたくないような。
「若、仕事の依頼です。伺いましょう」
ぼくの隣に腰を下ろしたシーラが手帳を開く。
「……伺いましょ」
「その間はなんですか」
「や、ソフィーに茶と何か食べ物を頼んだんだがな。少し遅い気がしてな」
「みんな昼食をとったあとですから何もないのでは?」
「昼食?」
「……今、何時だと思っておいでですか」
「ルレイア、仕事の話だから皆のぶんもお茶を。ソフィーを手伝ってくれるか」
シーラとばばあが冷めた目でぼくを見ていた
お久しぶりです。
ずっと忙しくて中々に更新できずにいました。
週に一度か二週に一度ぐらいの更新になるかと思います。
読んでいただいたみなさまに感謝を。
楽しんでいただけたら嬉しいです。




