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20/精霊の話

「──でな、そのヴァル湖の源流には精霊が住まうとされているのだよ」


どこか勝ち誇った顔のガリア候。


「精霊?精霊がヴァル湖の源流にいるのですか」


「まぁ、あくまでも言い伝えではな」


四代前のガリア候が領地を治めて時代に大きな内戦があったらしい。

その内戦が精霊の怒りを買ったことで、ガリア領は一度滅びかけたという。


源流へ続く道は現在、ガリア領側からの立ち入りは禁止。許可制にしているというが、申請したとしても通らないが。


「他の領にも精霊がいるところはあろうよ。国内外問わずにな」


「何故、話題にならないのでしょうか?」


「それはな、人にとって益になるかどうかがわからんからだな。龍と同じよ」


「へえ、龍ですか」


「龍は力。意思を持った力そのもの。人の事情など関係なしに気に入らねば滅ぼされるだけよ。精霊は意思を持った自然。そこにあるだけでな、上手く付き合えば益になるし、敬意を忘れれば害にもなる──」


──まぁ、そんなものだろうよ。と、噛み締めるように言う。


「なるほど。では、自然は自然のままにしておくがいいということですか」


「欲にまみれた人が自然を舐めると酷い目にあうことはあることだからな、事実、ガリアの地は一度滅びかけた」


これでは会いに行きたいというのは無理か。

いや、場所がわかればガリア側ではないほうから行けばいいのか。


悩むぼくに続けてガリア候は。


「お前が立ち入りを望むのなら、通してやろう」


「是非、お願いします」


「ヴァル湖の源流がある所は人の立ち入らぬ大自然ぞ。本気で行くのなら少し鍛えた方がいい」


ガリア候はひとしきり精霊の話と犬の話をして、夕方に帰って行った。

あれは相当な犬好きだな。


中庭で再び犬たちを見て、ぼくの開発したドッグフードに興味を持ち、結構な量を持って帰って行った。



「まったく、肝が冷えたぞ」


「申し訳ありません」と二人からの謝罪がある。


「事業への参加はソナタ様とお会いになった上で決めると押し切られました」


「まぁいい。詳しく聞こうか」


「では、これを──」


渡された兄さまと父さま、それから師匠の手紙を読みつつ話を聞く。


リリーズとペザンテ、ガリアの三箇所のそれぞれでケアクリームの製造を行うこと。

師匠が数名を製造に関して人を出してくれること。

三家からそれぞれ商会か薬師ギルドを通しての販売になること。

売上の3%~5%がぼくに入ること。

販売先の領地を三家で分けること。


これらが大まかに決まったことだった。

北方での先行販売の結果をニ家と師匠の方で共有し、改良案を出すことも決まっている。


父さまと兄さまからの手紙にはよくやったと、師匠からは面倒ごとは押し付けてくるなと書いてあった。


「師匠はよくのってきたな」


「いいえ、アマデウスさまがメインで人を集めることとなりました」


「では、礼を言わなきゃならんな。あとで手紙を書こう」


「ソナタ様、まとめてきますと偉そうに言いましたが、レガート様では荷が重いと様も王都へいらっしゃいました。わたしの力不足です」


「いいや、結果まとまったんだよくやった」


悔しそうなシーラに声をかける。


「お前たち二人がいないと不便だったからな、落ち着いたら人を増やすことも考えなきゃならんと思っている」


「そうした方が良いと思います」


しかし、ガリア候はとんでもないおとこだったな。護衛もなしに単身で家の中までくるとは肝が据わっているどころじゃない。


ぼくの呟きに反応したのはアルガスだ。


「若、あの方に護衛はいりません」


「ほう」


「その反応からご存知でないとは思いますが、あの方は竜と同じでヒューマン族の域は軽く超えております。魔法でも素手でも単身で都市を落とせると呼ばれるお方ですので」


「貴族籍から抜けることばかり考えるのでなく、少しは貴族について学ぶべきかと思います」


「なんだ、シーラも知っていたか。そうだな、一応、名前を聞いておこうか」


「レイオース・ガリア様です」


その名を忘れないようにしとかなきゃな。

なんとなく長い付き合いになりそうだし。


こうして、レイオース・ガリア候との初めての遭遇は終わったのだった。


「あぁ、そうだ。アルガス、春までに一から鍛え直さなきゃならん」


「ほう、春までに、どの程度ですかな?」


「一人で山越えできるぐらいには。理想的なのは狩人に近いか。身を守れることは前提で、食料と水の確保。痕跡の見つけ方から野宿の方法まで幅広くだ」


「それを春までにですか?」


「そうだ」


「難しいですね。どこへ行かれる気で?」


「ヴァル湖の源流だ。雪解けを待ってそこへ行く」


「何をしに行くのかお聞きしても?」


湖魚が旨いらしい──どういったものか悩んだに末答えると、シーラが冷えた声を出す。


「ソナタ様、これは真面目に聞かない方がよろしいですか」


「いや、悪かった。精霊がいるとの言い伝えがあるのだ。ぼくは精霊に会いにいく」


精霊と聞いてルレイアの目を輝かせながら「精霊!?」と大声をあげた。


「お前も一緒に行くか?」気づくと何故かそう言っていた。


音が鳴りそうなぐらいうなずくルレイアに苦笑しながら


「じゃあ互いに苦手を補い合おう。アルガス、行くのはぼくら二人だ」


精霊について。

いや、精霊魔法について。


わからないことが多い。


師匠ですら、よくわからないらしい。

イメージとしては精霊に魔力を対価に精霊の力を行使できる


会いたいな

そのためにはカラダを鍛えなきゃならん


精霊の居場所は人が立ち入らない自然が厳しいところだ。

いや、人にとって厳しい。

自然は自然のままか。


精霊は自然そのものかもしれんな


後日。

ガリア家の紋章入りの短刀と犬が届いた。


短刀は前世でいう所のマキリと呼ばれていた狩猟刀、もしくは漁師包丁に似ていた。

持ってきた侯爵家の人間は、紋章を見せれば源流へ向かう道を通してくれるらしい。

前もって連絡はして欲しいと言われた。


そして、犬である。


「えっと……これは……?」


「一歳のオスで、名はカリューといいます」


「……はぁ」


クリーム色と褐色の犬で、元は軍用犬、猟犬である。ソリ犬としても使えるらしい。


「以前に頂いた餌の礼とのことです。あと、定期的に納品して欲しいとのことです」


「……わかりました」


ぼくは声を絞り出した。

こうして、ぼくの家には現在4匹の犬がいる。



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