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文化祭もフラグ 2

 西一祭当日はどこもかしこも人で溢れている。

 賑やかな青春の声は、ほんの少し昔を思い出させて胸を締め付ける。

「ど、どこ行くの」

 無言で手を引く彼はどんどん人気のないところへ向かっていく。

「ねぇ、ここ入っていいところ?」

「部外者立ち入り禁止エリアだから、あんま人来ないし」

「えっ、じゃあ私もダメでしょ!」

 慌てて彼の手を放す。そのまま振り向いた彼の強い瞳に射すくめられる。

「と、とにかく戻らないと……」

 居た堪れない。

 ここから離れてしまいたい。


「あれ?誰かいますか?」


 突然聞こえてきた声に肩が震える。

(どうしよう、見つかっちゃう)

 焦る私を、彼がギュッと抱きしめて木の影に隠れる。

 いつの間にかすっかり私より大きくなってしまった体にすっぽりと包まれる。

 心臓が爆発しそう。

 少しでも身体を離そうと身じろぎすると、さらに強く抱きしめられた。

「多分見回りの生徒会。動かないで」

 耳元に低い声が吹き込まれて、背筋がぞくりとした。


「誰もいない。気のせいかな」


 見回りはすぐに諦めてくれたようだ。

 遠ざかる足音が聞こえても、彼は私を離そうとはしなかった。





「に、任務完了?」

「バッチリだよ!お疲れ!」

「よくわかんないけどお疲れー」

 舞と遙のハイタッチに祐希の手が重なる。

「それにしても、なかなか高度な初仕事だったね」

「うん、周り誰もいないし、緊張した……」

「まぁ神宮くんは目立つから、周囲に溶け込む必要がない今回の仕事で逆に良かったのかも」

「実際生徒会役員だから見回りも違和感ないしな」

「そうなんだよ、わかってきたね祐希くん!」

「舞ちゃん、報告書ってこれで合ってる?」


 今日の舞の目的は2つ。

 1つは亮平を捕まえること。

 もう1つは『遙の初仕事を見届けること』だ。

 フラグを建てる流れを相談された時点で遙にも無理なくこなせる仕事だと確信はしていたが、やはり初仕事は緊張するものだ。しかも1人でやり遂げなくてはいけない。

 少しでもサポートできればと思ってきたのだが、要らぬ心配だった。

(前は仕事こなせないかもって心配してたけど、やり方次第だな)

「報告書、送れた」

「じゃあこれで仕事終了だね。神宮くんこの後の予定は?」

「あ、生徒会の方に行かないといけなくて」

「そうなんだ。忙しいね。じゃあ私は咲子と小林くんのところに行こうかな」

「ごめんね、一緒にいけなくて」

「オレがちゃーんとエスコートするって」

「めちゃくちゃ不本意だけど、まぁ、一応、よろしく」

「不本意そうすぎる」

 祐希がケラケラと笑うのをひと睨みしてから、遙は校舎の方へと走っていく。

 クラスのフォトスポットに生徒会の仕事に、初フラグ建築。きっといつも以上に忙しいのだろう。多少寂しいが仕方がない。

「咲ちゃんと亮平どこ行くって?」

「体育館。男バレとバレー対決して勝ったらお菓子もらえるんだって」

「あぁ、何人でどんなチーム組んでもいいってやつ?」

「うん。バレー経験者で固めるって言ってた」

「なにそれ、いいじゃん」

 祐希は舞の肩をポンと軽く叩いて先に歩き出す。

「それにしても、咲ちゃん対亮平かぁ」

 舞が隣に並ぶと祐希は自然と歩調を合わせてくれる。

「応援は咲ちゃん一択だね」





 体育館ではまさに熱戦が繰り広げられていた。

 咲子のチームは12人でコート全域をカバーし、ママさんバレーから現役バレーボール部員まで様々なバレー経験者が西校男子バレー部を追い詰めている。

「ヤバ。落とすとこないじゃん」

 体育館の隅っこに座り込んで祐希がケラケラと笑う。

 ここに来る途中も祐希は先輩から後輩、先生まで、男女問わず幅広く声をかけられていた。それでも舞をきちんと体育館まで連れてきてくれたのだから義理堅い人だなと思う。

「祐希くんって神宮くんと付き合い長いの?」

「いや?高校入ってから」

 笑いながら試合を見ていた祐希の視線が舞へと向けられる。

 明るい茶髪に日が当たってキラリと輝いた。

「そうなんだ。神宮くん、祐希くんにはすごく気を許してるみたいだからずっと小さい頃から一緒なんだと思ってた」

「あー、あれね。かーわいいよねぇ」

「かわいい。確かにかわいいんだけど、ちょっとずるいよね。祐希くん神宮くんに何したの?」

「えー、オレと遙の馴れ初めが知りたい感じ?」

「差し支えなければ」

「ないですけどね。んー、なんだろ」

 考えるように、視線をコートに戻す。ちょうどパワフルなマダムが男バレコートにアタックを突き刺したところだった。



▪️ー▪️




 遙は入学した瞬間から話題の中心だった。

 新入生代表として壇上に上がった姿を見た時の第一印象は「綺麗な男」。

 オレはガキの頃から謙遜も驕りもなくモテていたし中学からのツレもみんなそれを知っていたから「ライバルじゃん」とか「祐希もかっこいいけど神宮くんは別格」とか勝手に盛り上がっていた。

 アホらしい、と思いながらオレも「なんかとっつきにくそうなやつ」と思ってたから同罪なんだけど。

 実際の遙は誰にでも平等で気取ったところもなくていいやつだった。

 いつも穏やかな笑みを浮かべて、誰にでも親切で、みんなに頼られて、いつだって格好いい。


 そんな人間いるか?


「なぁ神宮、オレお前のこと嫌いかも」

「……わざわざ教えてくれてどーも」

 誰もいない放課後の教室。なんでそんな場所に2人で残っていたのかはよく覚えていない。ただ、オレンジの西陽が差し込む教室に、遙はまっすぐ背筋を伸ばして座っていて、それがとても綺麗だった。

 藪から棒のオレの宣言に、遙は明らかに嫌そうな顔をした。当たり前だ。そう長い付き合いなわけでもないクラスメイトにいきなり「嫌い」宣言されたのだから。

 でも、その当たり前の表情の変化が、オレにはすごく興味深く映った。

 顔を近づけてまじまじと遙の表情を観察すれば、遙は眉間に皺を寄せてオレの額を手で押し返す。

「お前さ、誰にでもいい顔するじゃん。いっつも笑ってて疲れねぇの?」

「怒ってるより笑ってる方が疲れないだろ。それに、お前も割といつも笑ってない?」

「オレは疲れる。どうせステータスしか見てないくせにどーのこーの言うなって思う」

「お前のステータスって?顔?」

「そう。顔がいいとか、頭がいいとか、家が金持ちとか、そんなん。ステータスが高い仲間がいると自慢できるとか、そんなん」

「長谷川って、頭いいの?」

「そこかい。入試トップには及ばないけどね。親が医者で勉強には厳しかったから」

「へー。いい親御さんだな」

「神宮のとこは?」

「普通だよ。父親は公務員で母親は会社員」

「……普通じゃん」

「そうだよ。ちょっと目立つ見た目してるけど、普通の人間。でも、やっぱり目立つから愛想は多少良くしてる。その方が自分が生きやすいから」

 真っ直ぐに人の目を見るやつだった。西陽のせいか瞳が燃えているようで、その美しさに背筋が震える。

「生きやすい?」

「そう。言っとくけど俺は『みんな好きなのは俺の見た目だけ』という段階はもう済ませた。見た目しか見えないんだから見た目で判断してもらえればいい。余計な軋轢は邪魔だから多少愛想は良くする。それくらいの我慢みんなやってる」

 さらに傾いた太陽が遙の頬に影を落とす。それでも瞳は燃えているから、吸い寄せられるように目が離せない。

「で、本当に仲良くしたい、自分の全てを知ってもらいたい人ができたら、その時はその人に見てもらう努力をすればいい。見た目とか、ステータスとか、それ以外の本当に俺たちが知ってもらいたい部分ってさ、多分自分から見せに行かないといけない部分だろ。そこを怠けて『誰も本当の自分を見てくれない』なんて落ち込むのは不毛だよ」

「……目から鱗」

 自分のガキさにびっくりして、こんなにあけすけに話してくれる遙にもびっくりした。

「牛丼食べただけで『神宮くんが牛丼食べるなんて思わなかった』ってがっかりされてごらんよ。本当に仲良くしたい人は自分で選ぼってなるよ」

「……遙」

「は?」

「オレお前のこと好きかも」

「……俺は、俺のこと嫌いっていうやつは嫌いかな」

「なーんだよー。拗ねてんの?心配すんな、今は大好きだってー」

 抱きついて頭に頬を擦り寄せると思い切り引き剥がされた。心底嫌そうな顔をするから、その顔がすごくかわいいと思うとさらに好きになった。

「長谷川のその変わり身の早さの方が心配なんだけど」

「祐希って呼べよ。オレも遙って呼ぶし」

「なんだこいつ怖い」

「遙はかーわいいなー。今日一緒に帰る?なんか食っていこうぜー」

「怖っ!」



▪️ー▪️



「というわけで、その日から遙はずっと拗ねている」

「不覚にも2人ともかわいいな」

「だからオレ舞ちゃんのこともだいぶ好き。遙の面倒見てくれる人って貴重だから」

「まぁ乗りかかった船というか。基本的に神宮くん優秀だからあまり私の出番はないけどね」

「でもずっと見ててくれるじゃん。ありがとね」

 あまりにも嬉しそうに笑うから、ドキリとしてしまう。イケメンの笑顔は総じて心臓に悪い。

「マウント取られている気配しかしないのだけど、私も祐希くんのこと好きだよ」

「わーお。両思いじゃん。ハグしていい?」

「いいわけがない」

「オレ基本的に好意をスキンシップで伝える派なんだよね」

「もしかして祐希くん恋人3ダースくらいいる?」

「安心して。独り身だよ」

 両手を広げた祐希にじりじりと距離を詰められる。元から壁際に座っていたので逃げ道は残されていない。祐希ならよくあることとして噂にもならないのかもしれないけれど、イケメン耐性のないモブは心臓が口から出る恐れがある。

(他校で心臓丸出しはご勘弁願いたい!)

 せめてここで止める、と手で口を覆った瞬間、ドンっという音とともに祐希と舞の間に脚が伸びてきた。

 どこか覚えのあるシチュエーションに顔を上げると、遙が困ったような顔をしていた。

「びっくりした、舞ちゃんが見知らぬ変態に襲われてるから。怖かったね。こっちおいで」

 舞を背中に隠したところで、試合終了のホイッスルが聞こえた。

「舞ー!お菓子もらったから一緒に食べようよーって、何してるの?」

「咲ちゃんお疲れー。亮平負けてんじゃん」

「12人は流石にキツかった」

「じゃあみんなで遊ぼうよー。どこ行きたい?」

「お前はどっか行け。1人で遊べ」

「どーしたー。遙はご機嫌斜めかなー?」

「抱きつくなこの変態」

 抱きつく祐希を引き剥がす遙を見ながら、舞はどうしてもにやけてしまう顔を両手で覆った。


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