文化祭もフラグ 1
楽しい夏休みも終わってしまった9月の半ば。
舞と咲子は西校の正門前に立っていた。
『ようこそ!西一祭!』
手書きの文字と手作りアーチ。中学生から他校の高校生、保護者らしき人々が楽しそうにアーチを潜っていく。
今日は西校文化祭。通称西一祭初日だ。
西一祭は土日の2日間に渡って行われる。1日目が文化祭、2日目が体育祭という西校最大のお祭り行事だ。高校生活2大イベントとも言えるイベントを2日間でまとめて消費してしまうのは勿体無いような気がするが、このイベント以降3年生が受験に集中するためといわれている。
進学校も大変だ。
「進学校だから『準備するより勉強したほうがいいんじゃない』とか言ってもっとしょぼいのかと思ってた」
アーチのそばに備え付けられていたマップを見ながら咲子が感心したように声を漏らす。
校内は明日使うのであろう迫力ある応援旗や呼び込みの声が明るい模擬店、凝った展示物などで賑わっている。
「とりあえず神宮くんのクラスに行ってみよっか」
今日舞が西一祭に来たのには2つの目的があった。
「2年2組だっけ?えっと、『あなたの思い出はここに!フォトスポット』だって。神宮くんのクラスでフォトスポットってフラグの匂いがするね」
「狙ってんのかってくらいね」
面白そうな匂いがするぞ、という好奇心は一先ず置いて。舞と咲子はとりあえずマップを見ながら2組へと向かった。
「えげつない女子率」
2組は大盛況のようで教室からお客さんが溢れている状況だ。そのほとんどが若い女の子である。
別に写真を撮りたいわけではないがとにかく並ばないと入れそうにない。舞と咲子はおとなしく最後尾に並んだ。
「ここ遙くんと写真撮れるらしいよ」
「祐希この時間いるってさ」
「やば。ポーズ指定とかオッケーなのかな」
「あー、神宮先輩の隣に並ぶとか女として自信無くしそう」
キャッキャとはしゃぐ女の子たちの声を聞き流しながらマップを見ていた咲子がボソリと呟く。
「展示説明には『映えスポットで思い出の写真が撮れます。シャッター押します。お気軽にお声がけください』としか書かれてないんだけど」
「神宮くんと祐希くん自身が映えスポットってこと……?」
「まさかそんな事前準備不要の究極手抜き展示だったらどうしよう。西校面白すぎんでしょ」
「わくわくさせてくれるぜぇ」
そんな適当な会話をしていたら思ったよりもすぐに順番は回ってきた。
すっからかんの教室に遙と祐希が展示されている空間だったらどうしよう……そんな2人の期待はいい意味で裏切られる。
「本当に映えスポットじゃん」
教室がいくつかのブースに仕切られて、それぞれ写真撮影に適した飾り付けがされている。花束や耳付きカチューシャなど撮影に使えるらしい小物も貸し出しされているようだ。
教室のあちこちで女の子たちが自撮りを楽しんだり、2組の生徒らしいクラスTシャツを着た学生がカメラを構えたりしている。
「舞ちゃん、咲ちゃん」
水色のクラスTシャツを着た祐希が近付いてくる。
「いらっしゃーい。好きな小物使って、好きな場所で写真撮れるよ。スマホ貸してくれたらこっちでシャッター押すし、あそこのカメラ小僧に頼めば本格的なカメラで撮って、その後その写真買えます。ちなみにスマホの写真をすぐに印刷できるプリンターも準備してるから、そっちも買えます」
「なるほど。自分たちで撮った写真も印刷して買うことができると」
「うん」
「せっかくだから撮ろうよ、舞」
「オレ撮ろっか?割とうまいよ」
気楽に手を差し出してくる祐希に素直にスマホを渡そうとすると、横から声がかかった。
「ユーキ先輩、うちらと写真撮ってください」
制服からして中学生だろうか。きちんとメイクをした少女が3人、頬を赤らめて祐希を見つめる。
「あー、ごめんね。オレ今この人たちのシャッター押す係なんだ」
あっさりと断られてしまって少女たちは戸惑ったように舞たちに視線を寄越す。きっと中学生が勇気を出して誘ったのだろう。一般客らしき舞たちを前に食い下がっていいものか測りかねているのだ。
舞も咲子も鬼ではない。純情な女子中学生なんてむしろ好物だ。
「や、私ら勝手に撮るからいいよ」
「え、でも舞ちゃん自撮り下手そうだよね」
「キミは女子高生になんてこと言うんだ」
「あはは。ごめんごめん。あ、はーるかー、ちょっとこっち代わってよ」
祐希がふらりと手を振ると女子の集団の中から「呼ばれてるからちょっと」という声が聞こえて遙が出てきた。やっぱり水色のお揃いクラスTシャツを着ている。
遙は舞たちの姿を見つけると笑顔で近寄ってきた。
「なぜさらに人気者を呼ぶ?」
「サービスサービスぅ。もうすぐ休憩だから後で合流しよーね」
遙と交代で祐希は少女たちと写真を撮りに行ってしまう。
「舞ちゃんたち写真撮るの?シャッター押すよ?」
なぜか嬉しそうに手を出されてしまった。周囲からの視線がビシバシ突き刺さる。
「いや、私ら勝手に撮るからお構いなく」
「え、でも舞ちゃん自撮り下手だよね」
「キミたちは女子高生を舐めすぎではなかろうか」
「ごめんごめん。でも俺、写真撮る係なのにいつも撮られる側に入れられるからまだ1枚もお客さんの写真撮ってあげれてなくて……」
しょんぼりされてしまった。
とっくの昔に自覚済みだが舞は遙に甘いのだ。そんな顔をされたらどうにかしてやりたくなってしまう。
「ぐぅっ……そういうことなら……」
渋々スマホを渡そうとした瞬間、周囲の空気がざわめいた。
「舞、周りが『あの神宮遙に写真を撮らせる気?あの子誰?』って空気になってるよ」
咲子に耳うちされピタリと動きが止まる。
そりゃそうだ。神宮遙は写真を撮られる側。そんな人をモブが使う側にしていいわけがない。
遙のしょんぼりをどうにかしてやりたい気持ちとモブとして正しく背景に溶け込みたい気持ちがせめぎ合う。
ちょっと祐希を恨み始めたところで今日の目的の1つが視界に入った。咄嗟に手を挙げてその目的を掴む。
「小林くんっ、ちょっと写真撮ってくれない?」
いきなりTシャツの裾を掴まれた亮平は驚いた顔をしながらも快くスマホを受け取ってくれた。
「神宮くん、後で連絡するね。ほら、呼ばれてるし」
あちこちで女の子に呼ばれる遙の背中を無理やり押し出す。
納得いってない様子の遙の背中を見送って、一息つく。なんだかもう疲れた。
「で、どこで撮る?小物も使えるよ」
突然掴まれたことも気にしていないかのようにおおらかに笑う亮平に、舞は心の中で手を合わせながら言った。
「とりあえず空いてるところでお願いします」




