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遊園地3

 遊園地の締めくくり、ナイトパレードをみるために多くの人が場所取りを始めている。

 舞たちもパレードをみるため、6人固まって道の脇に陣取る。

 空は薄い夜の色をして、昼間より気温が下がってきたとはいえ、遊園地内独特の熱気が人々の興奮を決して冷めさせない。

(解散になる前に小林くんにバイトの件聞いておかないとな)

 もうすぐ夏休みになる。イベント盛りだくさん、つまりフラグも盛りだくさんだ。

 相手にも予定があるだろうし、できれば夏休み前に約束を取り付けておきたい。

(パレードまでもうちょい時間あるし、今聞けるかなぁ)

 少し体を乗り出して亮平をみると祐希となにやら笑いあっている。邪魔するのは申し訳ないが、彼らは学校も同じなんだから譲ってもらってもいいだろうか。

(でも男子の会話に割り込むのちょっと緊張するんだよなぁ)

 しかし別日に改めて亮平に連絡を取るのも緊張することを知っている。祐希なら笑って許してくれそうな気もするし。

 気合いを入れて亮平に話しかけようと舞が口を開きかけると、舞の視界に割り込むように遙が顔を寄せてきた。

 その近さと唐突さに思わずカエルが潰れたような声が出る。

「舞ちゃん、今日やけに亮平のこと気にしてる?」

 そんなに態度に出ていただろうか。自分の挙動不審具合が容易に想像できてしまって情けない。

「まぁちょっと……ご相談がありまして」

「相談って?」

「いやまぁ、大したことじゃないんだけどね」

「それ、俺が聞いちゃダメなやつ?」

 声に少し拗ねたような色が滲む。恐る恐る遙の顔を伺えば、少し眉間に皺が寄っている。

「俺は舞ちゃんにすごく助けてもらったから、できれば舞ちゃんを助けるのは俺がいいんだけど」

 最後に小さく「ダメ?」と呟く声はどこか自信なさげで。

(かっっっっわいいなこの人!)

 この世の全ての人に、神様にだって愛されているような人なのに。友人が別の友人に取られることを心配してしまうような普通の男の子。世話になった友人の力になりたいと素直に伝えてくれるような素敵な男の子。


(なんて愛おしいんだろう)


 完敗だ。まぁ勝てるなんて思ったこともないけど。

(きっと私は、この人のそばにいる限り、この人のことが好きなんだろうな)

 遙がフラグを乱立しようと、彼女ができようと、そばにいる限りきっとずっと好きでいるんだろう。それくらい許してほしい。

 そもそも特に隠すような相談でもない。舞はあっさりと口を開いた。

「もうすぐ夏休みだから、フラグ建築の現場に小林くんが一緒に来てくれたら助かるなって思って。それを相談してみようと思っただけだよ」

「咲子ちゃんじゃなくて?」

「もちろん咲子の力も借りるけど。夏祭りとか海とか、男女でいた方が溶け込みやすい場面も多いから」

 舞の言葉に遙が少し考え込むような仕草を見せる。

「それって、デートスポットだからってことだよね?」

「そうだね」

「夏休み中に、亮平と、たくさんデートスポットに行くってことで合ってる?」

(そう改めて確認されると……難易度高いな)

 単発バイトのお誘いくらいの気持ちだったが、亮平からすれば他人の青春のためにデートスポットでよく知らない女とモブになれと言われても、ということだろう。

(時給、上げるか?)

 人がいい亮平ならば引き受けてくれる可能性は高そうだが、だからこそ声をかける前に条件を見直した方がいいかもしれない。

「うーん、確かに。小林くんに相談する前にもうちょっと条件とか詰めてみるよ。神宮くんありが……」

「俺じゃダメかな」

 少女漫画のヒーローに言ってほしいセリフベスト5に入りそうなセリフが出てきた。

 さすが神宮遙。緊張したような少し硬い表情も声色も完璧だ。心臓が勘違いを起こして眩暈がする。

「確かに前舞ちゃんの仕事について行った時は邪魔しちゃったけど、今は俺だって正式にフラグ建築士だし。役に立てると思う」

「えっ……と」

 頭と心を整理するための時間を稼ぐために無駄な言葉が口から転がり落ちる。顔は赤くなっていないだろうか。誤作動も甚だしいので早急に血の巡りよ止まってくれ。

「それに、」

 舞が自分を連れていくことに難色を示していると思っているのだろう。遙が安心させるようににっこりと笑う。

「俺、舞ちゃんと同じ事務所の後輩になるわけだし。先輩の仕事を勉強させてもらうってことで、舞ちゃんの実績作りにも役立つと思うな」


「……はいぃ?」


 思ったより大きな声が出たらしく、隣にいた咲子の視線がこちらへ向く。

「どした?妖精でも見た?」

「え?あ?いや……神宮くん、同じ事務所、なんだって」

「マジで?いつの間に。神宮くんならもっと大手から声かかりそうだけど」

「確かに声はかけてもらったんだけど、なんか広告塔みたいにされそうだったから。俺、前も言ったけど壁になりたいし」

(そんな豪勢な壁があるかよ)

「だから、お仕事させてくれそうな事務所をいくつか見学させてもらって。花園先生の漫画が置いてあったのが決め手かな!」

(置いたの私だな!?)

「へー!うちの事務所ちょうど男子高校生いなかったし、社長頑張ったのかな?これからよろしくね」

「うん、よろしく。だから舞ちゃんの夏休みの仕事、同行させてもらえると嬉しいなって」

 はたと動きを止めた咲子がなにやら考えるような様子を見せる。奥にいる亮平と遙を見比べ、何かに納得したかのようにうんうんと頷いた。


「いいと思う!」


 舞以上の大声を出した咲子に亮平たちの視線も集まる。

「なにがいいってー?」

「神宮くんが舞の仕事を手伝うんだって」

「へー。俺はよくわかんないけど頑張れよ」

「夏休みも働くの?大変だねぇ」

 わいわいと話し始める亮平たちをよそに、舞は咲子を横目で睨む。

 きっかけ作りはフラグ建築士の十八番だ。


「まぁいいじゃん。経験積ませてあげなよ」

 確かに、フラグ建築士としての思考力は身についてきた遙だが、正直実戦となると心許ない。この神に愛された天性の美貌を持ってすれば、フラグは遙に集まってしまう。

 どれだけ仕事に失敗しても遙なら直向きに頑張るのだろうが、1人では限界もあるだろう。

(あんまり悲しい思いもさせたくないしな)

 我ながら甘いと思いつつ、面倒を見るなら最後まで、だ。とりあえず遙に夏休みの予定を聞こうと決める。


(つまり、夏休み中に、神宮くんと、たくさんデートスポットに行くってことであってる!?)


 当初の想定からいつの間にかハードルが爆上がりしていた。背中にじわりと汗が滲む。

 不意に、ぬるい風に乗って明るい音楽が聞こえてくる。周囲の人々から歓声が上がった。

 遠くからチカチカとカラフルな光が近づいてくる。みんなスマホを掲げ、同じ方向を熱心に見つめている。

 くるくる舞い踊るダンサーたちとキャラクターを乗せたフロートが軽快な音楽と共に近づいてきた。「楽しい」を目に見える形にした集団は見ている人たちも「楽しい」へ導く。

 そんな中、パレードを見ていた遙がこちらへ振り向く。

 そっと、耳元で囁かれた。


「俺頑張るから、夏休みはたくさんデートしようね」


 パレードの光で色とりどりに照らされる遙はまるでアイドルのようにかっこよくて。

(いや、仕事ですけど)

 そんなツッコミは口に出せないまま、遙越しに夢みたいに楽しいパレードを見ていた。

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