遊園地2
「よかったら一緒に遊びませんか?」
「一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
「すみません、私モデル事務所の者で」
「奢るからお姉さんたちと遊ぼうよ」
「パパ活って興味ある?」
ジェットコースターに乗る時に浮かれたサングラスを外した遙は老若男女を瞬く間に惹きつける。
舞だって、遊園地で遙を見かけたら何かの撮影かと思うだろう。
「神宮くん、普段より声かけられること多くない?」
「あぁ、こういう場所ってみんなテンション上がるから声かけやすくなるみたい。ごめんね、迷惑かけて」
「いや、迷惑ではないけど。もう一つ浮かれたサングラス買ってあげようか?」
「んー、俺の目は2つしかないから足りてるかな」
「お化け屋敷でめっちゃお化けがついてきたのは神宮くんのせいだと思う」
「あれは舞ちゃんがすごくいいリアクションしてたからじゃない?」
少しだけ遙が申し訳なさそうな顔をするから、どうにかしてやりたいと思う。だって今日は遙の合格祝いだ。憂いなく楽しんでほしい。
(でもなぁ、私にできることはフラグを建てることだけだし)
「舞ちゃん、遙。佳奈ちゃんたちがこの先のカフェ行きたいってさ」
髪色も笑顔も明るい祐希が舞の隣に並ぶ。そういえば、今日の祐希はあまり声をかけられていない気がする。
「祐希くんもめちゃくちゃイケメンなんだから、神宮くんに任せきりにせずにもっとちゃんとナンパされなよ」
「言ってる意味はよくわかんないけどありがとー」
「だって、人気が二分されれば神宮くんも声かけられる頻度が減るじゃん」
「いやいや、それなら舞ちゃんが遙とイチャイチャしてる方が効果的じゃね?彼女持ちです!みたいな顔してりゃいいんだよ」
これだから陽キャは、恐ろしいことを簡単に言ってのける。舞が遙とイチャイチャしたところで「あいつになら勝てる」と思われるのが関の山だ。少女漫画で散々みた。
「いやいやいや、それこそ現実味がなさすぎて効果ないよ」
「えっ!いいじゃーん!手とか繋いでみたら?」
佳奈が勢いよく振り返って声をあげる。突然協力味を出してくるな。ついさっきまで誰よりも遊園地を満喫していたくせに。
大人しく話を聞いていた遙が軽く身を屈めて舞の顔を覗き込む。
「だってさ。繋いでみる?」
「ぐっ……!」
上目遣いの瞳と目が合って、あまりのあざとさに頬の内側を噛む。
(神宮くん、ちょいちょいこういうからかい方するよな)
極上の見た目で女子にこんな絡み方をするのだ。そりゃああちこちでフラグが乱立するだろう。なんだかもうナンパも自業自得な気がしてきた。
「手を……」
「ん?」
「手を繋ぐなら、神宮くんと祐希くんがいいと思う」
舞の発言に遙がもう一度「ん?」と首を傾げる。祐希も目を丸くしていた。
「だって神宮くんと祐希くんがイチャイチャしてる方がまだ現実味あるし、絵面が美しくて効果も抜群だよ」
「やめて。現実味はないでしょ」
「えっ……いいじゃん……ンフッ、とりあえず繋いでみたら?」
好奇心に負けたらしい佳奈が肩を振るわせながら後押しをする。笑いを堪えようと口の端が震えている。
「こっ、効果、ありそうだね……」
「ふっ……いいんじゃない。試してみれば」
いつの間にか咲子と亮平も目を泳がせたり口元を隠したりしながら同意している。手元にはしっかりとスマホが構えられていた。
もちろんそれに応えない祐希ではない。
舞の隣から遙の隣に移動し、無駄にキメ顔を作りながらするりと遙の指に自分の指を絡める。
「ったく、しょうがねぇなー。今日だけだぜ?」
パチンとウインクをすると、繋いだ遙の指に軽く音を立ててキスをした。
「「「キャーーーーっ!!!」」」
舞たち、ではなく周囲の見知らぬ女性集団たちから派手な悲鳴が上がる。
咲子と亮平と佳奈は腹を抱えて笑いながらスマホで連写をしていた。
顔色を青くした遙が投げ捨てるように祐希の手を振り払った。
「最悪……」
そんな遙を面白がるように亮平たちのスマホが追う。
(え、絵力強ぇぇぇぇ)
自分で自信を持って提案したとはいえ、ここまで破壊力のある絵面になるとは思っていなかった舞はあっけに取られている。
そんな舞に祐希がケラケラ笑いながら近づいてきた。
「ご満足?」
「大変結構なお手前で」
「あはは。今オレと手ぇ繋いだら、あの神宮遙と間接手繋ぎできるよー」
気楽に「はい」と手を差し出され、舞の動きが思わず止まる。
(え?祐希くん私が神宮くんのこと好きって気づいてる?申し訳ないでもどうこうなろうとは思ってませんご安心ください。それはそれとして神宮遙と間接手繋ぎチャンスってどういうことだ。なぜだろうめちゃくちゃ良提案に聞こえるこの響き。いやでも人としてどうなんだ私。しかしこれはレアチャンスじゃないかな繋いじゃえばいいかな祐希くんだし、なっ!?)
この間1秒。
「ではせっかくなので」
「はいはーい」
あっという間に欲に負けて祐希の手に触れようとした瞬間、その手が消えた。
「痛ッ!え?なに?今蹴られた?」
「なんで舞ちゃんにまで手ぇ出そうとしてんだよ変態」
どうやら遙に蹴られてよろけたらしい。舞と祐希の間にムッとした遙が割り込んでくる。
「いやいや、貴重な神宮遙の温もりをお裾分けしたげよーと思っただけじゃん」
「じゃあ俺が分けとくからお前は亮平にでも分けとけ」
「なにそれ大盤振る舞いじゃん。おーい、りょうへーくんやーい。僕と手ぇ繋ぎましょー」
やっぱりケラケラ笑いながら祐希はあっさりと亮平にターゲットを変える。
祐希の手に触れようとした格好のままぼけっと突っ立っていた舞に、遙が拗ねたような表情を見せる。
「わざわざ祐希経由しなくてもよくない?」
そう言ってすんなりと舞の手を取った。
以前にも遙に手を握られたことがあるけれど、その時とは全然違う。遙の手の大きさや温もり、さらりとした手の感触に頭が沸騰しそうだ。
(手汗が!やばい!)
まともに働かない頭を無理やり動かす。
天然フラグ乱立マンに流されるわけにはいかない。このフラグは遙にとって、無限にあるフラグの一つでしかないのだから。
「さ、咲子ー!佳奈ー!神宮くんが握手会してくれるってさー!」
亮平と祐希を追いかけていた2人の動きが止まる。
お互いに顔を見合わせ、何かを相談しているようだ。
遙の手を堂々と握るチャンスと、友人のフラグの邪魔を天秤にかけているのだろう。しかし、舞にはわかる。モブに世界の主人公と触れ合う機会なんて多くない。その引力には逆らい難いはず。1秒で祐希の提案に乗った舞がいい例だ。
「「よろしくお願いしまーす」」
咲子と佳奈が、素直に舞の後ろに並んだ。
なんだか訳のわからないことになったが、いつも通り遙が笑っているからまぁいいだろう。




