表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

飯田咲子は考える

 世間はいつの間にか梅雨入りしていた。

 連日シトシトと降り続く雨に流石に気が滅入ってくる。

 せっかくいい匂いがするお気に入りのヘアミストを使ったのに。湿気をたっぷりと含んだ髪の毛に辟易としながらせっせと撫でつける。

 ようやく学校につき、下駄箱で靴を履き替えているとクラスメイトに声をかけられた。

「おはよー。って、スカートめっちゃ濡れてない!?」

「あー、来る途中で車に水かけられて」

「えー、最悪だね。タオルは?」

「ハンカチしかなーい」

 大げさに肩を落としてみせると、突然ふわりと白いもので視界が遮られる。

 驚いて触れるとそれはふわふわのタオルで、見上げると智樹がいつもの無愛想な顔で隣に立っていた。

「それ、使えば」

「あ、ありがとう」

「ん」

 ぶっきらぼうにそういうと智樹はさっさと自分のクラスへ向かっていく。

「きゃー!やったじゃーん二葉!」

 クラスメイトに小突かれながら二葉は真っ赤な顔で智樹の後ろ姿を見送った。



「任務完了」

 モタモタと靴を履き替えながら背景の一部になっていた舞が満足げな顔で立ち上がる。

 今日のターゲットは同じ学校のギャルとぶっきらぼうなスポーツ男子だ。

「舞何したの?」

「登校中に二葉ちゃんが車道側に来るようにさりげなく横並びで歩いただけ」

「なるほど。彼女はいつもタオルは持ってなくて、彼はタオルを持ってるって知っての作戦なわけだね」

「そうともさ」

 朝から一仕事終えた達成感を滲ませながら教室へ向かう舞の後ろ姿を見つめながら、咲子は唸った。


 舞はフラグ建築士としてとても優秀だ。


 お互いにフラグ建築士だとわかる前から友達だった。だから舞の真面目で、面倒見のいい性格はよく知っていた。

 お互いがフラグ建築士だとわかってからは一緒に仕事をこなすこともあった。

 その時に、舞の事前準備の緻密さに舌を巻いたのをよく覚えている。


 フラグ建築士の仕事は事務所から受注する。

 その時にはすでにターゲットの情報はある程度調べられているので、それを元に一番建てやすそうな方法でフラグを建てることが多い。

 きっかけは星の数ほどあろうとも、王道フラグというものはいくつかに絞れるからだ。

 咲子も事務所からの情報のみで仕事をしていた。そもそもフラグはさりげなさが命なので、無理なくこなせそうな建築士にしか仕事が振られない。事務所からの情報で十分なのだ。

 けれど舞は、独自にターゲットについて調べる。フラグを建てやすそうな場所を下見する。ターゲットの今後にまで気を配り、一番無理のないフラグについて真剣に考える。


 非効率的で、真摯で、あたたかい仕事ぶりに驚いた。


 だから突然遙が現れた時も舞なら本当に適任だと思ったし、どうせならフラグ建たないかなとも思った。

 大好きな友達が、とんでもないイケメンとどんなフラグを建てるのか興味がある。


(なんて思ってたら理性的片思いと無自覚片思いになったわけですが)


 正直遙の無自覚片思いについては咲子の希望も含まれている。

 そこまで親しくないというのもあるが、遙は基本的にそつがなさすぎて本心が読みにくい。姉の漫画を貸したお礼にチラッと話したことがあるだけの気になるチョコレートがもらえるとは思わなかった。そのマメさにたまげた。

 でも、舞のことを憎からず思っているのは間違いないだろう。祐希にも話を聞いて、どうやら舞が一番仲のいい女友達だという情報も得ている。


 舞の理性的片思いについては割と自信がある。あの子は何も言わないけれど。

 まぁ、普通に考えてあの神宮遙と一緒にいてときめかない人間はいない。

 咲子だってときめいた。

 あんなに気になっていたチョコレートはなかなか食べられなかった。

 けれど、舞のフラグ建築士という仕事にかける想いも知っている。

 人の幸せばかり追ってきたプロモブの親友は、自分があんなに目立つ人間と幸せになるビジョンが見えないのだろう。

 恋に全力になれない舞は、理性で恋心をコントロールする。


(このままじゃ長所も短所もないような優しさだけが取り柄の男と舞は付き合ってしまう……)


 その様子を思い浮かべて、なんだか妙にしっくりときた。それはそれで幸せそうだ。


「さ!き!こ!」


 突然の大声で現実に引き戻される。いつの間に教室まで来たんだっけ。

 目の前には腰に手を当てた佳奈と報告書を送信し終えたらしい舞がいる。

「どしたの、ぼーっとして」

「え?あ、舞の未来の彼氏について考えてた」

「もしかして神宮遙くん?なーんだ、やっぱりそうなんじゃん。言ってよねー、協力するよあたし」

「だから違います」

 佳奈は大口を開けて笑いながら舞に「またまたぁ」と言っている。

「とりあえず西校の友達に神宮遙くんについて聞いてみるね。どうせならみんなで遊ぼうよ!超がんばる!」

「佳奈、落ち着け。そのスマホを大人しくカバンにしまいなさい……!」

 佳奈と舞の犯人と警察官のようなやり取りを見ながら、咲子はやっぱり、と思う。

(このままじゃ親友のフラグを野生のフラグ建築士に奪われそうじゃない?それならやっぱり、私が建てたい!)


 長所も短所もない優しさだけが取り柄の未来の彼氏くんごめんなさい。

 可も不可もない穏やかな幸せも素敵だけど、舞にとって一番の幸せをもう一度本気で考えさせてね。

 本気で考えた結果がキミなら、ひと肌脱いでやるからさ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ