先日大変なことが判明した
先日大変なことが判明した。
どうやら舞ちゃんは、試験が終わったら俺と縁を切るつもりだったらしい。
押しかけ生徒とはいえ、それなりに信頼関係も築いてきたと思っていたのは俺だけだったのだろうか。
正直ショック。
「これ咲子ちゃんに借りてた漫画。ありがとう」
「どうだった?」
「うん、意外と面白かった。勉強になったよ」
先日の『祐希と遙にフラグを建てるなら』という話の中で、遙はひとつの事実に気がついた。
少女漫画に憧れて、人の恋路を応援したいと思ってフラグ建築士を目指してきた。そして、その恋路の中には同性同士の恋愛だって存在するのでは、ということだ。
舞に相談したところ『すべてのジャンルにおいてフラグ知識を持っていて損はない』ということで、咲子の姉から男性同士の恋愛を描いた漫画、いわゆるBL漫画を借りてみた。
(同姓の友人と肩を組むだけでフラグになる可能性があるとは)
お互いにすれ違ったり相手を思い遣ったり、という点は少女漫画と大差はないがBL漫画特有のフラグもあって勉強になった。
男性同士の恋愛漫画を読んだのだから次は女性同士の恋愛漫画を読みたいと思ったが、あいにく舞も咲子も持っていない。
それならばと、舞と遙は週末に漫画喫茶にやって来ていた。
「神宮くん、紙袋の中に何か入ってるよ?」
「あ、それは漫画借りたお礼。一緒に渡しといてくれる?」
「了解。咲子も来れればよかったのにね」
「部活なら仕方がないよ。あ、ごめん、肘当っちゃった」
「大丈夫。結構近いもんね」
読んだ漫画についてすぐに話せた方が便利だろうと思っていわゆるカップルシートを選んだが、意外と距離が近い。
これが少女漫画なら片思い中の女の子の心臓が大暴走。顔を真っ赤にし、挙動不審なくらいに目を合わせない、なんて展開が王道だろうか。
(でも舞ちゃんの顔は真っ赤にならないし、目が合わないのは真剣に漫画を読んでるから、なんだよね)
ごそっと引き抜いた百合漫画の表紙を見て、数人の女性に二度見されたのは自覚している。この顔は、美少女2人が表紙になっている漫画を読むようには見えないらしい。
(楽なんだよなぁ。舞ちゃんといるの)
舞は少女漫画をタワーにして黙々と読んでいる。
遙は自分が他人の興味を惹きやすい容姿をしていると自覚している。
完璧な外見は完璧な中身を連想させるらしい。
実際に遙は頭も運動神経も人並み以上に良かったし、周囲の友達の評判からして性格も悪くない。
そんな遙の欠片を見て、多くの他人は遙に幻想を抱く。
そして勝手に幻滅したり、勝手に惚れ直したり、勝手に神格化したりする。
「誰も本当の自分をわかってくれない」
なんて自惚れるほど恥知らずではないけれど、まぁ「勝手言ってるな」とは思う。
だから、「フラグ建築士になりたいのにもう14回も試験に落ちている少し情けない生徒」として自分を扱ってくれる舞といるのは楽だ。
だって実際に遙は、それ以上でも以下でもないのだから。
(でもそれって俺に興味が全くなくて、どうせすぐに縁を切る男だと思ってたからってこと?)
先にレビューを読んで目星をつけていた百合漫画は、絵が綺麗で心理描写が繊細だ。一応男性向け漫画雑誌で連載されていたらしいが、少女漫画を彷彿とさせる。
(俺は舞ちゃんといるの楽しいから、流石にちょっと寂しい)
咲子のフォローもあってすぐに縁を切られることはなさそうだが、遙がなにもしなければ舞はあっさりと離れていくのだろう。
(あ、これって少女漫画っぽいな。王道の流れとしては、ここから俺が舞ちゃんへの恋心を自覚して舞ちゃんを振り向かせるために頑張るって感じかな)
舞との試験勉強の甲斐あって、簡単なストーリーを組み上げるのにはすっかり慣れた。
(他校だから、繋がりを持ち続けるためにきっと俺は次の試験で合格するな。で、フラグ建築士になって舞ちゃんと一緒に仕事をする。いや、また不合格になって引き続きお世話になるっていうのもラブコメっぽいかな)
「ふふ」
思わず笑い声が溢れた遙を、隣の舞が不思議そうに見上げる。
「笑える感じの漫画?」
「あ、ごめんねうるさくして。できれば、次の試験に合格したいなって思って」
「大丈夫でしょ。モブ思考も板についてきたよ」
「舞ちゃんのおかげでね」
「プロだからね」
ふふんと得意げな笑みを見せて舞は少女漫画の続きに戻る。すでにタワーは三分の一程度崩されていた。
これは恋かと問われれば、少女漫画じゃないんだからと答えるけれど、自然体でいられるこの友人との交流は続けていきたい。
今はただ、お世話になっている大切な先生への恩に報いるためにも、自分のためにも、試験に合格するのが一番大切だ。
舞が今も遙と縁を切りたいのかどうかは知らないけれど、そんなことは試験に合格してから考えよう。
「ねぇねぇ舞ちゃん」
自分が読んでいる漫画の気になる部分について意見を聞こうと隣の舞に体ごと漫画を寄せる。
元から近い距離がさらに縮まって腕が触れる。
ゴンっ
驚いた舞が盛大に壁に頭をぶつけた。




