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なにそれ燃えるね!

 当初の予定通りショッピングモールに向かい、舞と咲子の目的だった本屋に寄ってからモール内のファストフード店に落ち着いた。


 遙と祐希はどこに行っても視線を集めるが、慣れているのか気にする様子も見せない。逆に仕事柄視線には敏感な舞と咲子の方が居た堪れない気持ちになる。


「舞……神宮くんと2人で勉強してる時どうしてんの?」

「いや、2人の時は神宮くんが勝手に視線を集めてくれるから私は自動的に透明人間になるっていうか」

「あー、今日は人数増えた分私らも見えやすくなっていると?だから『イケメンの隣の地味女誰よ』をくらいやすくなっていると?」

「おそらく?」

「雑魚能力……!」

「モブに能力強化は許されてないから」


「なーに?ゲームの話?」


 明るい声と共に、トレーを持った遙と祐希が戻ってくる。

「はい、舞ちゃんがコーラ。咲子ちゃんがオレンジだよね」

「ありがとう。お金どっちに払えばいい?」

「大丈夫。迷惑かけたのはこっちだから。祐希の奢り」

「えっ?オレの奢りなの?えー、まぁいっか。ポテトもあるよー」

 にこやかな遙の勝手な宣言も気にすることなく、祐希は食べやすいようにポテトを紙ナプキンの上に広げる。

「なんか神宮くんって、ゆう、き、くんの前では雰囲気違うね」

 男子を下の名前で呼ぶことなんて滅多にないので案の定噛んだ。居た堪れない。

「舞ちゃん、無理しなくても長谷川でいいよ。長谷川も長ければ『おい』でいいから」

「なぁに、オレの方が仲良しになっちゃって嫉妬してるの?」

「お前を友達として紹介することになった俺の心労を慮れよ」

「そんな遙に。ほーら、長いポテトだよ」

 ポテトを口に突っ込まれた遙は不本意そうながら大人しく咀嚼している。

 見たことがない遙の表情に思わず声を漏らして笑ってしまった。本当に、祐希と一緒にいる遙は知らない顔ばかりだ。


「ところで、舞ちゃんと咲ちゃんはフラグ建築士なんでしょ?遙って試験大丈夫そうなの?」

 ポテトをつまみながら祐希が尋ねてくる。

「大丈夫だと思う。最近は正答率上がってるし」

「そうなんだ。フラグ?って結局のところどうやって建てるの?」

「そうだなぁ、例えば神宮くんと長谷川くんのフラグを建てようとするじゃない?」

「祐希って呼んでくれないとハグしちゃう」

「あ、はい」

 ひっそりと行った軌道修正は失敗に終わる。

「なにそれ燃えるね!」

「建てなくていいから」

 咲子が目をキラキラさせて前のめりになり、同時に遙は嫌そうに身体を引いた。

「青春ものの醍醐味としてはやっぱり神宮くんと祐希くんがお互いを恋愛対象として意識するのが鉄板かな」

「鉄板じゃないでしょ」

「なんそれ。面白いね」

 咲子が元気よく挙手をする。

「はい!神宮くんの周囲に突然現れた他校の女を利用するのがいいかと思います!」

「そうだね。神宮くんは他校の女を利用してどうやってフラグを建てる?」


「とりあえず、建てないかな」


 にっこりと微笑まれた。この種類の笑顔も初めて見た。

「まぁまぁ。練習問題だと思って」

「えぇぇぇ。そうだなぁ、とりあえず舞ちゃんと俺が話している姿を祐希に見せる、かな」

「いいね!正解!」

 舞と咲子がパチパチと遙に拍手を送る中、祐希はきょとんと首を傾げる。

「それだけ?それだけでオレと遙が付き合うの?」

「大事なのはきっかけだから。祐希くんは今までぼんやりとしか神宮くんと他校の女子が一緒にいるという事実を認識していなかった。それが私の登場で、顔を見ることで、一気にリアリティが増す」

 舞の説明を遙が引き継ぐ。

「一回知っちゃったら、次から俺が『週末は舞ちゃんと勉強』って言った時、もっとリアルな想像になるだろ。そこから『なんだこの胸のモヤモヤは』って恋を自覚する流れが多い」

「へー!マジで些細なんだね。じゃあオレは今後舞ちゃんの存在にモヤモヤし続けるのかー」

「まぁ会うのは6月の試験までだから多めに見てよ」

「えっ……」

「えっ……」

「……」

「……」

 出会った頃を彷彿とさせる気まずい沈黙が落ちる。しかし今回はどれが失言だっただろうか。舞は驚いたような顔をする遙を見てオロオロすることしかできない。

 そんな友人を助けるように、咲子がワントーン明るい声を出す。

「舞ってばスパルター!合格した途端放り出されても神宮くんだって困っちゃよねぇ」

「え?あ、うん。できれば事務所選びの話とか聞かせて欲しいし、仕事の相談とかも、したいかな」

 恐る恐る、といった遙の言葉に、舞は瞬き2回分の間を開けてポンと手を打った。

「確かに。いやいやそうだよ、事務所選びとか重要だもんね。聞いて聞いて」

「うん、ありがとう?」

「そういうわけで祐希くん、しばらくモヤモヤさせると思うけど同じ学校という利点を活かせば他校の女なんて蹴散らせるから、頑張って!」

「舞ちゃん、その練習問題はもう忘れようか?」

 2人のやり取りを楽しそうに見ていた祐希は、にんまりと笑う。


「オレと遙が舞ちゃんを取り合う、って展開になるフラグはないの?」


 一瞬動きを止める舞と遙の隙間を縫うように、咲子の楽しげな声が響いた。

「なにそれ燃えるね!!」

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