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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第92話 逸した好機

 佐伯が立ち去ってから数分後。

 森の中に倒れていた安藤が目を開けた。

 彼は土を払って立ち上がると、スーツの撃たれた箇所を確認する。

 生地には穴が開いていたが、その下に着込んだ防弾チョッキが弾を止めていた。

 マッシュルーム状に潰れた弾を見て、安藤は小さく肩をすくめる。


(……油断したなぁ。まさか反撃されるなんて)


 安藤は今の時点まで死んだふりをしていた。

 村長の底力を目の当たりにしたことで正面戦闘は危険と判断し、再び奇襲の機会を窺っていたのである。

 彼にとって予想外だったのは、村長が佐伯に敗北したことであった。

 おかげで反撃の場は失われ、最後の収穫を取り損ねる事態となってしまった。


 安藤は周囲を観察する。

 夜闇の中で炎が赤々と猛っていた。

 遠くからでも熱を感じるほどの規模にまで拡大している。


(残念だけどそろそろお開きかな)


 安藤はまだこの状況を楽しみたかった。

 しかし、理性では潮時だと理解している。

 このまま岬ノ村に執着すれば取り返しのつかない領域まで踏み込むことになりかねない。

 遊びで終わらせるなら、ここで離脱するのが最適だった。


 そう自分に言い聞かせた安藤は足早に移動を始める。

 黒煙を吸わないようにハンカチで鼻と口を押さえ、もう一方の手は短機関銃を持っていた。

 些細な気配も逃さないように集中し、視線は絶えず獲物を探し求めている。


 欲を言えば、佐伯を殺害してみたかった。

 暴走していた装甲車も気になる。

 殺し合っていた"みさかえ様"とピエロの男にも興味があった。

 そういった本音を抑えて安藤は歩く。

 己の衝動を我慢することは日常茶飯事で、別に苦しいとも思っていなかった。


 それなりの時間をかけつつも、安藤は停めていた自分の車まで戻ってきた。

 火災も付近にはまだ届いていなかった。

 罠が張られていないことを念入りに確かめてから、彼は運転席に乗り込んでエンジンをかける。


 彼の車は燃える森を軽快に下っていった。

 なるべく安全なルートで進み、時には焼けた樹木を強引に踏破する。


 安藤は岬ノ村との関与を警察側に知られたくなかった。

 一連の行動を怪しまれると、これまで隠匿してきた"過去"を芋蔓式に暴かれる恐れがあるためだ。

 証拠隠滅や口封じは彼の十八番ではあるもののそれにも限度がある。

 混沌とする現場で県警に素性を明かす展開は避けたかった。


 やがて安藤は山の麓に辿り着いた。

 遠くの道路をパトカーと消防車の集団が走っている。

 万が一にも見つからないように注意しつつ、安藤は目立たない道を選んで山から去った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ……んー、何か、安藤は元々殺人嗜好があって、警察官としての身分はその隠れ蓑&獲物の情報取集として活用しているっぽいね。
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