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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第90話 命の臨界点

 爆発の瞬間、村長が味わったのは強烈な痛みだった。

 無数の破片が全身に突き刺さり、高熱によって皮膚が焼け爛れる。

 既に満身創痍だった肉体が新たな苦痛に悲鳴を上げた。


「ぐっ…………おぉ……」


 よろめいた村長がさらに数十発の銃声を浴びてうつ伏せに倒れ込む。

 森の木々の合間に目出し帽を被る男が立っていた。

 男は冷たい目で短機関銃を持っている。

 手榴弾も銃撃もすべて男の仕業だった。


 一部始終を目撃した佐伯は動きを止める。

 目出し帽の男が味方か判別できなかったからだ。

 下手に動いて刺激した場合、村長のように撃たれる恐れがあった。


 佐伯と男は無言で見つめ合う。

 沈黙に耐え切れず先に発言したのは佐伯だった。


「だ、誰」


 目出し帽の男は答えない。

 彼――安藤は己の正体が露呈することを嫌う。

 そのため配信中のスマートフォンに映らない位置から奇襲を仕掛けた。

 佐伯の言葉に応じないのも配信に声を残したくないからだった。


 蜂の巣にした村長を一瞥して安藤は微笑む。


(漁夫の利でボス討伐ってところかな)


 銃の弾倉を交換しようとしたところで、安藤は銃声を聞く。

 胸に衝撃が走り、スーツに穴が開いた。

 続けて銃声が鳴り響いて、強い痛みが胴体に炸裂する。

 安藤は何も言わずに崩れ落ちた。


 村長が立ち上がっていた。

 伸ばした手には拳銃が握られている。

 殺害した警官から奪ったものであった。


「ざまあ……みろ…………」


 瀕死の村長は、倒れた安藤を見てほくそ笑む。

 そのまま拳銃を佐伯に向けて引き金を引くも弾切れだった。

 舌打ちした村長は拳銃を捨てる。


 地面に刺さる仕込み杖は、手榴弾の爆発で破損していた。

 根本から折れて使えそうにない。

 すべての武器を失った村長は激しく吐血する。

 気力で誤魔化してきた命も潰えようとしていた。


 その様子を目にした佐伯は、ある危険な考えを抱く。


(今なら倒せる……?)


 もし全力を出して逃げれば、村長を追いつかれることなく山の外へ行けるだろう。

 しかし彼女の本能は因縁を断ち切るべきだと囁いていた。


 佐伯は拾った拳銃の弾を確認する。

 未使用の銃に装填されているのは六発だった。

 人間を殺傷するのに十分な数である。


「……よし」


 覚悟を決めた佐伯は踵を返し、半壊した吊り橋を慎重に戻っていく。

 拳銃はいつでも村長を撃てるように構えられていた。


 立ち向かうことを選んだ生贄に、村長は血だらけの口で笑う。


「ほほう……もう、逃げぬ……のか」


「ここであんたをぶっ殺した方がいいと思ったの。名案でしょ」


 佐伯は挑発気味に言う。

 村長は笑みを深めた。


「……お主もすぐに、伊達のもとへ送ってやろう」


 宣言した村長は、佐伯に向かって走り出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宣言した村長は、佐伯に向かって走り出した。 なんで走れるんだバケモンが
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