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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第86話 束の間の休息

 佐伯は星原を連れて必死に走っていた。

 二人とも大きな怪我は負っていない。

 装甲車”方舟”が軽自動車に衝突する数分前、彼女達は脱出して森の中に入っていたのだ。

 もし行動に出るのが遅ければ、衝突に巻き込まれて死んでいただろう。


 佐伯は夜の森を走り続ける。

 息は上がり、心臓が破裂しそうなほど動いていた。


「はぁ、はぁ……くそ、疲れたぁ……っ!」


 文句を吐きながらも佐伯は足は止めない。

 村とは反対方向へとひたすら向かう。

 武器を何も持っていないため、なるべく安全な方角に進みたかったのだ。

 遮蔽物の多い森に入ったのは、狙撃されるリスクを恐れてのことであった。


 同行する星原は森の風景を撮っている。

 しかし手ブレが激しく、映像としては視聴しづらいものが続いていた。

 当然ながらコメント欄は不平不満の嵐だった。


『揺れすぎ』


『酔ってきた……』


『つまらん』


『村に戻ってよ』


『もっと殺し合いが見たいなー』


 木々が途切れて少し広い道路に出る。

 少し先に人工の光が見えた。

 ライトを持つ人間が近付いてくる。

 佐伯はすぐさま星原を引っ張って木陰に退避した。


「こっち! 隠れて!」


「話しかけないのですか。配信的にはその方が」


「いいから黙って!」


 佐伯はじっと光を注視する。

 それを持つのが村人ではないことを心の底から祈った。


 やがて距離が近くなったことで相手の容姿が確認できるようになる。

 道路の先から現れたのは大勢の警察だった。

 彼らは透明の大盾を構えて慎重に進んでいる。


 佐伯は、村人が警察に変装している可能性を考えた。

 しかし彼女の疲労はとっくに限界で、どのみち見つかれば逃げられない距離である。

 この状況下で村人が数十人規模で落ち着いて行動するはずがないとも思った。

 いくつかの希望的観測を重ねた結果、佐伯は手を振りながら警察の前に姿を見せた。


「お願い、助けて!」


 警察は本物だった。

 彼らは佐伯と星原を保護すると、部隊の一部が麓まで案内することとなった。

 十人の警察が連れ添う形で佐伯と星原は道路を進む。

 その途中、佐伯は警察官の一人に尋ねた。


「パトカーは無いんですか」


「山道は封鎖されている箇所が多くてね。途中から徒歩で移動するしかなかったんだ。すまないね」


「いえ……」


 応じる佐伯はすっかり気が緩んでいた。

 武装した警察に守られている状況なら、いくら邪悪な村人でも襲ってこないと考えたのだ。

 質問に答えた男が隣の警察官を指し示しながら語る。


「しかし予定より早く到着できたのは僥倖だったよ。彼が地元の駐在でね。土地勘があるもんだから、最適なルートで案内してくれたんだ」


「へえ、なる……ほ、ど……」


 相槌を打とうとした佐伯は固まる。

 彼女の頭の中で、岬ノ村の医者である伊達の言葉が再生された。


 ――最寄りの駐在は村の人間なので頼ってはいけません。


 次の瞬間、佐伯は紹介された警察官を指差した。

 そして大声で叫ぶ。


「こいつ! 村の人間よッ!」

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