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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第76話 導かれた男女

 軽自動車が前触れもなく減速を始めた。

 カラカラと奇妙な音が鳴っている。

 リクがアクセルを踏み込むが何も反応しなかった。


「お? 何だ、全然動かねえぞ」


 リクが首を傾げる間に、軽自動車は完全に止まった。

 エンジンも沈黙していずれの操作も利かない。

 仕方なく外に出たリクとナオは車体を確認する。


 軽自動車は無数の銃痕で穴だらけだった。

 数え切れないほどの衝突でどこもかしこも陥没し、へばりついた血液で元の色が分からない。


 度重なる酷使により、軽自動車はついに故障したのだ。

 ここまで動いていたのが奇跡に近い状態であった。

 ボンネットを開いたリクは困った様子でぼやく。


「あー、やばいな。修理できるか?」


「どうやって直すの?」


「そりゃ中身を色々いじるんだよ。工具とか使ってやったらいけるだろ」


 リクが返答したその時、彼の右肩を弾丸が貫いた。

 突然の負傷にリクが転倒する。

 痛みよりも驚きの方が大きかった。

 周りには他に誰もおらず、撃たれるとは思いもしなかったのだ。


「うえっ?」


 間を置かずに銃声が鳴り、ナオも弾丸を受ける。

 左太腿を撃ち抜かれた彼女は車にぶつかりながら倒れた。


「うにゃっ」


 素早く立ち上がったリクは、ナオの手を握ってすぐさま走り出した。

 弾丸は彼らのいた場所を紙一重で突き抜けていく。


 小道を進むリクは興奮した顔で笑っていた。

 被弾した肩からは血が流れ出している。


「痛えぇ! やっば! 撃たれた! 本物だ! うわ、痛ってえ!」


「どうしよう、血が止まらないよ! 死んじゃうかもー!?」


「大丈夫だ! これ飲んだら全回復だって!」


 励ますリクは酒の入ったボトルを押し付ける。

 ボトルの底には白い粉が沈殿していた。

 ナオは中身を一気飲みすると、口移しでリクにも飲ませる。

 さらに銃声が鳴り響き、リクの腹に穴が開いた。

 それでも彼は構わず走り続ける。

 痛みは痺れに変わり、彼に高揚感と快楽を提供していた。


 小道の終わりにあったのは錆びたガレージだった。

 村の中央部から大きく外れたその場所は森に囲われてひっそりと佇んでいる。


 開かれたままのガレージには、黒塗りの大型トラックが停めてあった。

 トラックはすべての面に分厚い鉄板が溶接されている。

 特に前面はピラミッド型の装甲を備え、突破力に物を言わせる形となっていた。


 本来はガラス部分の箇所は、スリット付きの鉄板に置き換えられている。

 後部に積まれたコンテナは溶接され、同様のスリットを施されている。


 端々まで異様な改造が施されたその車両は、岬ノ村が用意した奥の手だった。

 万が一、村の秘密が暴かれた時の逃走手段であり、迫る敵を葬るための殺戮兵器である。

 村人の間では"方舟"と呼ばれていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >黒塗りの大型トラック >すべての面に分厚い鉄板が溶接されている。  クリント・イーストウッドとソンドラ・ロックが主演を務めた1977年の映画『ガントレッ…
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