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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第73話 本能解放

 崩壊した家屋から村長が這い出てくる。

 村長は瓦礫を押し退けて頭を振った。


(……気を失っていたようじゃな)


 立ち上がろうとした村長が血を吐いて倒れる。

 全身に重度の火傷を負っており、左腕は肘から先が欠損していた。

 脚も裂けて骨が露出している。

 額には木片が刺さり、角のように伸びていた。


 どうして生きているのが不思議な状態であった。

 村長は己のしぶとさに感心する。


(まさかあれで死なずに済むとは……)


 伊達が自爆する直前、村長は仕込み杖で彼の胸を貫いた。

 その際に起爆装置のコードが破損し、作動に遅延が発生したのである。

 爆発までコンマ数秒の猶予が生まれたことで、村長は距離を取ることができた。

 無論、それだけで完璧に回避できるはずもない。

 即死を免れたのは単なる幸運だった。


 どうにか立ち上がった村長は、足元に転がる物体に注目する。

 それは白衣の断片がへばりついた人間の腕だった。

 伊達の死体である。

 他の部位は一つも見当たらなかった。

 爆発で木っ端微塵になったのだと村長は察する。


「お主の、覚悟を舐めておった……さすがじゃな」


 少し離れた場所では、鈴木と平野が殺し合っていた。

 彼らは村長よりも先に復帰していたのだ。

 どちらも爆発で重傷を負っているが、それを感じさせない動きで戦っている。


 鈴木は極彩色の鱗を縫い付けた生地を身に纏っていた。

 脱いだまま浴室へ行ったため、爆発後にわざわざ見つけて着直したのだった。

 常にその格好でいるように洗脳されたが故の行動である。

 鈴木は焼け焦げた柱を振り回して攻撃していた。


 対峙する平野は無邪気に笑う。

 岬トンネルの脱出から愛用した火炎放射器は背負っていない。

 燃料切れか、爆発で故障したのだろう。

 現在は手斧を武器にしている。


 両者の実力は拮抗していた。

 全力で殺し合っているものの、一進一退で決着する気配がない。


 村長は加勢を検討しかけて、すぐに首を振って考え直す。

 平野は今代みさかえ様の鈴木と互角の立ち回りを見せている。

 満身創痍の村長が不利なのは明らかだった。

 したがって戦うのは得策ではないと判断する。


(まずは傷の治療をせねば)


 村長は治療道具を探して瓦礫を漁る。

 最初に出てきたのは仕込み杖だった。

 切っ先が割れて短くなっているが、十分な殺傷能力が保たれている。


 村長はさらに瓦礫を掘り進めて、唐突に手を止める。

 現れたのは割れた翁の能面だった。

 村長がみさかえ様の役目を担っていた頃の儀式用具で、記念に保管していたものである。

 倒壊の衝撃が原因なのか、額の部分に大きなV字の亀裂が走っていた。


 懐かしさを覚えた村長は能面を顔に当てる。

 額に刺さった木片は亀裂の位置にあり、特に問題なく装着できた。

 村長は能面の紐を後頭部で結ぶと、昏い笑い声を洩らす。


「くっく、再び獣になれというか……よいじゃろう」


 村長はふらつきながら家屋跡から下りる。

 そこへ一人の村人が心配して駆け付けてきた。


「そ、村長! 大丈夫かっ」


 返事の代わりに放たれたのは仕込み杖の斬撃だった。

 胴体が割れた村人は何が起こったかも分からずに転倒して息絶える。

 村長は死体に顔を近付けて血肉を啜り始めた。


 人肉の旨味が意識を支配する。

 自身の傷の治療や村に迫る警察のことなど、脳内から消し飛んでいた。

 捕食を済ませた村長は仕込み杖を片手に言う。


「――生贄は皆殺しじゃ」


 翁の能面は、血塗れの口で微笑んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >村長 >どうして生きているのが不思議な状態  何という悪運の強さよ。
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