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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第72話 覚悟の重み

 炎を目にした村長は、猿のように身軽な動きで飛び退いて鈴木を盾にする。

 鈴木の炎を浴びて甲高い悲鳴を上げた。

 彼は燃えながら走り出して浴室へと消えた。


 家が燃え始めたのに合わせて、外から愉快そうな声が聞こえてくる。

 たまに噴き込む炎が容赦なく室内を舐めていった。

 室温の急上昇で汗だくになった村長は、渋い顔で伊達に問う。


「これもお主の仕業か」


「はい。新たに洗脳してみました。もっとも彼は出会った時点で手遅れな段階に達していましたが」


 伊達は堂々としていた。

 彼はすぐそばが炎に包まれながらも平然と話す。


「洗脳には様々な手段があります。私が得意とするのは、対象の認識を助長するものです。認識の正誤は問いません。ようするに妄想や思い込みでも構わないわけです」


 また「にひっ」と声がした。

 高熱で溶けた窓からピエロメイクの平野が顔を見せる。

 平野は火炎放射器のノズルを見せると、そこから炎を撒き散らした。


 軌道上にいた村長は素早く退避する。

 その間に平野は顔を引っ込め、笑いながら家の周囲を走り回った。

 伊達は何事もなかったかのように説明を続ける。


「彼は燃えるトンネルから出てきました。応急処置を施した後、私は彼と対話を試みました。かなり難儀しましたが、岬ノ村を滅茶苦茶にしたいという願望は読み取れました。私の目的とも合致していたので、利用させてもらうことにしました」


 家全体が軋んでいる。

 火災の進行で柱が歪み、一部の床が崩落していた。

 室内に黒煙が充満し、伊達は何度か咳き込む。

 それでも彼は話を止めようとしなかった。


「私は彼を洗脳で強化しました。既に自己暗示で人格が不安定だったので、調整自体は簡単でしたね。狂気を助長し、痛みや疲れを快楽に変換できるようにしました。思考もあえて鈍らせることで、目的に集中できるようにしました」


「自我を沈めたわけか。どっちが悪か分からんのう」


 ぼやく村長は、仕込み杖を構えたまま用心深く周囲を睨む。

 彼は厄介な状況に苛立ちを隠せないでいた。

 斬りつけようにも平野は外におり、迂闊に仕掛けることができない。

 しかし時間をかけるほど火が広がり、焼け落ちた家屋に潰されるリスクが高まる。


 村長は伊達の目を見る。

 ある種の覚悟と諦めを宿した瞳が見つめ返してきた。

 驚いた村長は嫌悪感を露わにする。


「お主……心中するつもりか」


「まあそうですね。正攻法では敵いませんから」


「ではさっさと殺して脱出せねばのう」


 村長が抜刀の構えで疾走する。

 伊達は両腕を顔の横に持っていった。

 その対応に村長は眉を曲げる。


(素手で防ぐつもりか?)


 伊達の両腕が不自然に膨らんでいた。

 袖からはみ出しているのはベルトだった。

 それを何重にも巻いて防具にしているのだと村長は推測する。


(斬首による即死を恐れたか。無駄なことを……)


 構えを切り替えた村長は、踏み込みから刺突を繰り出す。

 仕込み杖の刃が伊達の胸を正確に貫いた。

 伊達は口端から血を垂らす。


「……っ」


「苦しいか。己の失策を悔いて死ね」


 村長が刃をひねる。

 さらなる苦痛に対し、伊達は表情を変えなかった。

 彼は血をこぼしつつ告げる。


「……言った、でしょう……あなたも道連れだと……」


 伊達が震える手で白衣をめくる。

 そこには大量のダイナマイトが固定されていた。

 彼の片手はスイッチを握っており、コードが袖を通してダイナマイトに繋がっている。

 その光景に村長が絶句する。


「なっ…………」


 伊達は躊躇なくスイッチを押し込む。

 次の瞬間、爆発が村長の家屋を吹き飛ばした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] 至近距離でこれやられたら、いくら村長でも(人外じゃない限り)生存不能だと思うが……。 [一言] 続きも気にしながら待ちます!
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