第66話 襲来する悪意
笑顔で歌う村人が斧で生贄を叩き切っている。
拘束された生贄は泣き喚きながら解体されていた。
広げられたブルーシートの上には、ぶつ切り状態の人肉が所狭しと置かれている。
岬トンネルの火災で失われた分を補充している最中だった。
付近一帯が血生臭くなっている。
肩を組み合う村人達が、出来上がった人肉料理を頬張っていた。
鮮血ワインの味を評論しつつ、スライスした人肉をフライパンで焼いている。
鍋でしゃぶしゃぶを満喫する者もいた。
武器を研ぎながら肉刺しを噛み締める者もいる。
彼らは各々の好みに合わせて人肉を調理し、思い思いに味わっていた。
阿鼻叫喚と狂喜乱舞が両立する混沌の地。
それが現在の岬ノ村だった。
『ちょっ、これは……』
『吐きそう』
『さすがにアウトだろ』
『通報した』
動揺するコメント欄とは対照的に、星原は落ち着き払っていた。
現場で惨劇を目の当たりにした立場でありながら何の感情も抱かない。
彼女は粛々と視聴者に語りかける。
「これが岬ノ村の真実です。いかがでしょう、欲に駆られた悪鬼が跋扈して」
「おい、そこで何してる」
話の途中、三人の男が星原に近付いてきた。
人肉を貪る彼らは剣呑な雰囲気で銃や刃物を持っている。
「誰だ」
「知っとるぞ。トンネルに連行された孕み袋だ」
「脱走したのか?」
「トンネルを燃やした犯人かもしれん」
「縛って犯すか。拷問は後回しじゃ」
「おう、それがいい」
素早く結論を出した男達が星原にじりじりと歩み寄った。
星原はスマートフォンを彼らに向けたまま後ずさる。
『これヤバくね?』
『襲われそう』
『エロ展開キタコレ』
『録画しよーぜ』
樹木を背にして追い詰められても星原は冷静なままだった。
澄まし顔の彼女は男達を指差して告げる。
「あなた達の寿命は残り僅かです。遺言はありますか」
「はあ? 何言ってやがる」
「気にすんな。頭がおかしくなっただけだろ」
「さっさと犯そうぜ。美人で胸と尻がデカけりゃなんでも構わんよ」
欲を滾らせる男達を強烈なハイビームが照らす。
その光は村とは反対方向から発せられていた。
男達は顔を顰めて発生源に注目する。
砂利道を猛スピードで突き進んでくるのは傷だらけの軽自動車だった。
男達は驚愕し避けようとするも、間に合うタイミングではない。
加速する軽自動車は、クラクションを鳴り響かせながら男達を轢き潰した。




