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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第63話 刑事の本懐

 安藤は煙草をゆっくりと味わう。

 細めた目は森に蔓延る深い闇を眺めていた。


「だいたい五年に一度、全国的に行方不明者が多発する時期がある。独自に調査をしたら、岬ノ村の人間が拉致していることが判明したんだ。言うまでもないけど、豊穣の儀で生贄を集めていたわけだね」


 そこで安藤は言葉を切る。

 聞き手の有栖川は、木の枝を拾って「これは実質ゴボウでは……!?」と勝手に盛り上がっていた。

 彼女は意を決して枝を齧り、悲しそうに吐き出す。

 安藤は一連の奇行を流して話を続けた。


「岬ノ村の情報を集めるのは手間だったけど、頑張った甲斐はあったね。こんなに楽しい経験はそうそうできない」


「なんでも楽しむのは良いことですわ。あとよければナスかピーマンを譲ってもらえますか?」


「どっちもないかなぁ」


 安藤がそう答えると、有栖川は露骨に悲しい顔をする。

 彼女の脳内は野菜のことで埋め尽くされており、安藤の告白はほとんど聞いていなかった。

 それでも安藤は平然と話を進める。


「村はマフィアとヤクザから奪った銃火器で武装しているんだ。密輸入されたコンテナを丸ごと盗み出したケースもあってさ。国内でここまでの無法地帯は珍しいよね」


 肩をすくめる安藤だが、彼の持つ短機関銃やその他の武器はいずれも違法な手段で調達したものだった。

 目的や立場は異なれど、村人達の同類と見なされてもおかしくない状態と言えよう。


「まあそんなわけで僕は趣味と実益を兼ねた活動をしている。刑事をやっているのもそのためかな。色々と都合が良いんだ」


「よく分かりませんが、すごいです、わ……っ」


 答えかけた有栖川が呻き、苦しげにペストマスクを外す。

 彼女は焦点の合わない目で地面を見つめ、夥しい量の鼻血を垂れ流した。

 安藤はポケットティッシュを差し出す。


「大丈夫かい」


「心配いりませんわ。野菜不足で体調を崩しただけですので」


「どう見ても野菜は無関係……まあいいか」


 指摘しようとした安藤は途中で諦める。

 彼は少し笑みを浮かべて有栖川に尋ねた。


「さて、秘密主義の僕がこれだけ明かした理由が分かるかな」


「野菜同盟のよしみかしら」


「そんな同盟を組んだ覚えはないけどね」


 安藤が突っ込みを入れたその瞬間、前方に村人の集団が現れる。

 銃声とチェーンソーの音を聞き付けた羽野の部隊だった。

 拳銃を構えた羽野が二人に問いかける。


「お前らが狙撃犯か?」


「ぶっ殺してやりますわァッ!」


 ペストマスクを着けた有栖川が返事代わりに突進する。

 彼女の背後では安藤が真横に走り出していた。

 短機関銃が火を噴き、応戦の動きを見せた村人達に弾丸を浴びせる。

 先制攻撃を受けて崩れたところに有栖川のチェーンソーが叩き込まれた。

 間合いを詰めた有栖川は、凄まじい力で羽野の部隊を八つ裂きにしていく。


 安藤は最初の銃撃以降は手を出さずに傍観していた。

 木陰から覗き込む彼は、有栖川の背中を見て言う。


「僕が秘密を明かしたのは、狂ったあなたに何を言っても問題ないと判断したから。そしてもう一つ……」


 安藤が黒地の目出し帽を被った。

 素顔を隠した安藤は悪意に満ちた微笑で呟く。


「もうじき死ぬ人間にちょっと自慢してみたかったんだ。特に意味のない気まぐれだよ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「もうじき死ぬ人間にちょっと自慢してみたかったんだ。特に意味のない気まぐれだよ」  ……まあ、有栖川が人外じゃなければ、その「自慢」は問題無いだろうけど。  それはそれとして、第1…
[良い点] 村はマフィアとヤクザから奪った銃火器で武装しているんだ。密輸入されたコンテナを丸ごと盗み出したケースもあってさ。 原始的な見た目の割に新鮮な情報を仕入れてて笑えない。どうやったら密輸入の…
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