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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第61話 殺人鬼

 村長が生贄狩りを宣言した頃、安藤は森の中に潜伏していた。

 彼は手持ちの最後のワイヤーを使って罠を設置する。

 各所のワイヤートラップは既に幾人もの犠牲者を出しており、森の中を移動するリスクを飛躍的に高めていた。

 負傷を恐れる村人は罠の解除に追われて行動を制限されている。


 安藤は聞こえてくる銃声に耳を澄ませる。

 反響して聞きづらいものの、誰かが撃ち合っているのが分かった。

 村人の声も聞こえてくる。

 本格的な戦闘が勃発していることを安藤は悟った。


(松田はおそらく死んだ。この騒ぎだと警察が来るのも時間の問題だし、そろそろ大胆に仕掛けるべきかな)


 安藤は短機関銃を構えて歩く。

 肩にかけたダッフルバッグには他にも様々な武器が詰め込まれていた。

 いずれも日本の刑事としては逸脱した物である。

 安藤は違法行為に対する罪悪感を持っていなかった。

 その双眸はどこまでも冷たく、ただ目的だけを見据えている。


 安藤が立ち止まったのは前方からチェーンソーの音が聞こえてきた時だった。

 茂みに隠れた彼は気配を消して音の方角を注視する。


(村の人間か?)


 やがて姿を見せたのは血みどろの有栖川だった。

 チェーンソーを吹かして闊歩する彼女はペストマスクを装着している。

 割れたレンズから覗く目は極大の狂気を宿していた。

 多量の血をこぼす有栖川は満身創痍だが、歩く姿はそう感じさせないほどに力強い。


 異様な存在を目撃した安藤は動かずに観察する。

 下手に刺激して襲われる可能性を嫌ったのだ。

 ただし短機関銃はいつでも撃てるように有栖川を狙っていた。


 有栖川は安藤の潜む茂みを通り過ぎる。

 そのまま歩き去るかと思いきや、彼女は前触れもなく振り返った。

 ぎょろりとした目が安藤をしっかりと捉える。

 有栖川はくぐもった声で話しかけた。


「あら、ごきげんよう。そこで何をしているのかしら?」


 見つかったことに感心しつつ、安藤は大人しく茂みから出た。

 そして平常通りに応じる。


「ちょっとね。臆病だから隠れていたんだよ。この辺りは何かと物騒だから。ところで――」


「あなたは肉がお好き?」


 有栖川が発言を遮って尋ねた。

 彼女の纏う狂気が濃くなり、チェーンソーの刃が血を飛ばす。


 安藤は肌がひりつくような緊張感を覚えた。

 にじり寄る死の気配に気付きつつも、彼は表情を変えずに返答する。


「何の話かな。ちょっと意味が」


「あなたは肉がお好き?」


 有栖川が歩き出す。

 すぐに駆け足となり、そこから全力疾走に達した。

 チェーンソーを掲げた彼女は絶叫気味に告げる。


「肉が好きなら死んでもらいますわぁっ!」


「あっ、肉は嫌いだよ。胃もたれするからね。そばとか野菜が好みかな」


 安藤の答えを聞いた瞬間、有栖川がぴたりと停止した。

 彼女はマスク越しに分かるほどの笑顔になると、チェーンソーを下ろして安藤に抱き着く。

 スーツに血が付いたことで、安藤は少し嫌な気持ちになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >この辺りは何かと物騒だから。 うん。おそらく世界でもトップクラスに物騒な場所だね。 口裂け女の野菜バージョンでw
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