第57話 狙撃犯
梶の死体を前に四人の青年は困惑する。
数秒後、彼らの顔が恐怖に歪んだ。
「うわっ」
「えっ」
「ちょっと」
「ま、待って」
連続で銃声が鳴って死体が五つに増えた。
自殺グループの青年達は全滅した。
舌打ちした羽野は料理の載ったテーブルを蹴倒すと、その陰に素早く飛び込んだ。
掠めるように弾丸が飛ぶも、彼に命中することはなかった。
村長も老齢とは思えない身のこなしで羽野の動きについて隠れる。
「狙撃か」
「ああ、五発で五人だ。いい腕してやがる」
面倒そうな顔をする羽野の手には拳銃があった。
銃口が長く、高倍率スコープとレーザーサイトの照準器が付いている。
狙撃用にカスタムされた特殊拳銃だった。
羽野はテーブルの陰から発砲し、すぐさま身を隠す。
反撃の銃弾は羽野ではなく周りの村人を射殺していった。
一定の間隔で頭部や胸を撃ち抜かれた死体が増えて、瞬く間に村中がパニックになる。
逃げ惑う村人達は「銃撃じゃ!」と大騒ぎだった。
銃を持つ者は闇雲に発砲して仲間を傷つけて混乱を助長している。
そんな村人達が次々と無差別に撃ち殺されていく。
突如として始まった蹂躙劇を前に、羽野はただ苦笑した。
彼は億劫な様子でぼやく。
「駄目だこりゃ。相手はプロのスナイパーだな。真っ向勝負じゃ話にならん」
「逃げた女の仕業かのう」
「たぶん違えだろ。こいつは素人のレベルじゃない。誰かがうちの村を狙ってやがるんだ」
羽野の見解を聞いた村長は、麻袋に入った松田の死体を見た。
そして忌々しそうに呟く。
「この男の依頼主が差し向けたのかもしれんな」
「探偵ごっこより現実の問題解決だ。さっさと倒さねえと負けるぞ」
「……みさかえ様をぶつけるか」
「耄碌しすぎだ。あんなの突っ込ませても時間稼ぎにしかならねえよ」
そう言って羽野は拳銃で周囲の松明を撃った。
光源が失われたことで村のその一角だけが闇に包まれる。
執拗に繰り返されていた狙撃がぴたりと止まった。
恐慌状態の村人達も徐々に冷静さを取り戻し、狙撃犯の警戒と捜索を開始する。
「暗視ゴーグルは持っていないようだな。今のうちにやるか」
羽野は腰を叩きながら立ち上がる。
そして大声で呼びかけた。
「何人か俺についてこい! 豊穣の儀を邪魔する馬鹿を殺すぞ!」
村人達が雄叫びを上げる。
彼らは羽野の号令に従って森の中へと踏み込んだ。




