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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第51話 悪を滅せよ

 佐久間はベストから予備弾薬を取り出し、手際よく猟銃に込めていく。

 その間も険しい表情を崩すことはなかった。

 勝利の余韻などは無く、滾る憎悪を燃やし続けている。


 佐久間は射殺した死体のもとへ向かった。

 周りに誰もいないことを用心深く確かめてから死体の持ち物を探る。

 彼は鈍器や刃物に興味がなかった。

 拳銃とその弾だけを回収してその場を素早く離れる。


 木々の間を通り過ぎる寸前、佐久間は唐突に立ち止まった。

 樹木の根本に赤いテープが貼られている。

 草木に紛れて見えづらい位置に巧妙に隠されていた。

 夜間はおろか、日中でも気付くのは困難だろう。


 佐久間はさらに目を凝らす。

 数センチ先に極細のワイヤーが何本も張り巡らされていた。

 何も知らずにぶつかれば負傷していたに違いない。

 運が悪ければ致命傷となって死んでいた可能性もある。


 佐久間はワイヤーに鼻を寄せて嗅いだ。

 刹那、彼の顔が激烈な怒りを示す。


「……人殺しの臭いだ。卑劣な悪め」


 佐久間はポケットナイフでワイヤーを切断する。

 彼は罠から狡猾な悪意を感じ取っていた。

 それがおそらく村人ではない者の仕業で、彼らを仕留めるために施されたものだと推察する。


 佐久間は今度こそ移動を再開した。

 闇に目を慣らしつつ、罠に引っかからないように注意する。

 ライトの類は一切使わない。

 居場所の発覚が何よりも危険だと考えるからだ。

 接近戦だと彼の老いた肉体では不利を強いられる。

 人数差があれば尚更だ。

 佐久間は加齢による衰えを理解し、同時に苛立ちと忌々しさを覚えていた。


 慎重に進む中、断続的に銃声が聞こえてくる。

 佐久間は耳を澄ませて状況把握に努めた。


(短機関銃、散弾銃、連射式の拳銃……まるで戦争だな)


 彼の脳裏を数十年前の記憶が過ぎる。

 異国の地で敵兵を殺していた時の記憶だ。

 その時も佐久間は銃を握っていた。

 血塗られた毎日を生き延び、ついには故郷へ戻ることができた。


 しかし、佐久間を待っていたのは焦土だった。

 家族は死んで彼だけが残された。

 喪失感に苛まれる佐久間が選んだのは八つ当たりだった。

 行き場のない怒りを正義感と誤認し、悪と見なした者へ発散し始めたのである。


 そうして人知れず行動し続けること数十年。

 佐久間は今、岬ノ村を目指していた。


「悪は全滅させる。皆殺しだ」


 呟く佐久間は昏い妄執に囚われている。

 本人もそれを是とし、修羅の道を進んでいた。


 佐久間が奇妙な叫びを聞いたのは、それから十分後のことであった。

 異変を察知した彼は、即座に茂みへと身を隠す。

 進路上を横切るように現れたのはアロハシャツの男だった。


「うおおおおおおお、クソがァッ!」


 悪態をつく男は全力疾走で山を下りていく。

 その際、後方に向けて拳銃を発砲した。

 男を追うのは極彩色の鱗に覆われた巨体だった。

 奇声を上げる巨体は転がるようにして男に掴みかかろうとしている。


 佐久間は猟銃を構えるも、両者は一瞬早く射線から消えた。

 声は瞬く間に遠ざかっていく。


「…………」


 少し考えた末、佐久間は彼らは放っておくことにした。

 ここから追い付くのは困難であると判断したためだ。

 それに加えて佐久間には優先すべき目的があった。

 大いなる悪——岬ノ村を崩壊させるため、彼は力強い歩みで山を登る。

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[良い点]  彼の脳裏を数十年前の記憶が過ぎる。  異国の地で敵兵を殺していた時の記憶だ。  その時も佐久間は銃を握っていた。  血塗られた毎日を生き延び、ついには故郷へ戻ることができた。  しか…
[気になる点] >彼の脳裏を数十年前の記憶が過ぎる。 >異国の地で敵兵を殺していた時の記憶だ。 >その時も佐久間は銃を握っていた。 >血塗られた毎日を生き延び、ついには故郷へ戻ることができた。 >し…
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