第44話 真実の告白
星原は山道を歩き出した。
彼女はスマートフォンを持ち直して、前方を映す形で固定する。
「わたくしは占い師の星原です。普段は迷える人々に助言を授けています。此度は魂のレベルを上げるため、山奥の村を訪問しました」
『これってヤラセじゃないの?』
『普通にドッキリ企画でしょ』
コメント欄は星原の登場に対する疑惑が飛び交っていた。
この状況が数時間かけた仕込みではないかと予想する声も多い。
画面を確認した星原は表情を変えずに述べる。
「フィクションを疑っていらっしゃる方がおりますが、これは紛れもない真実です。運命の導きによって、わたくしはここにいるのです」
『うわ……』
『電波系ってやつだ』
『陰謀論とか信じてそう』
『なんかマジっぽい雰囲気だけど……』
星原の言葉を聞いた視聴者はさらに怪しむ。
彼女を馬鹿にするコメントも少なくない。
そういった反応も特に気にせず、星原は自信満々に話を続けた。
「村は悪鬼の集う不浄の地でした。危うい場面はありましたが、今のところ問題ありません。すべて天啓のままに進んでいます」
どこかで複数の悲鳴が上がる。
さらに銃声らしき炸裂音も連続する。
丸腰にも関わらず、星原は動揺せずに歩く。
このタイミングで死なないことは占いでリサーチ済みなのだ。
急勾配を大胆に滑り降りつつ、星原は優雅に語る。
「特定の日時にこの山を訪れば、わたくしの名が世界的に知れ渡る。それが占いの提示した未来でした。具体的にどういう形で実現するのか不明でしたが、ここではっきりしましたね」
『的中したね』
『現在進行形で有名になってる』
『炎上商法?』
『やっぱりヤラセかな』
『星原ちゃんの顔と胸みせてー』
視聴者の大半は星原の私情にそこまで興味がなかった。
彼らが知りたいのは彼女の置かれた状況そのものだった。
『村ってどこの村?』
『てか赤青兄弟の二人は?』
『悪鬼とか不浄の意味がわからん』
『ちゃんと説明しろよ』
投げかけられた疑問を見つけた星原は足を止める。
そしてスマートフォンのカメラを自分に向けた。
画面の向こうの人々に対し、星原は堂々と真実を告げる。
「村とは岬ノ村のことです。彼らにはカニバリズムの習慣があります。豊穣の儀と称して、村外の人間を攫って食べているようです」
『……は?』
『さすがに嘘だよね』
『どんどんヤラセっぽくなってきた』
『B級ホラーやん』
反応は様々だったが、多くの視聴者は真に受けていない。
星原は澄まし顔で言葉を重ねる。
「嘘ではありません。わたくしは真実しか口にできませんので」
星原はスマートフォンのライト機能で地面を照らす。
そこには血の付いたタオルが落ちていた。
『本物の血?』
『これは作り物。映画業界にいるから分かる』
『はいはい、フェイクドキュメンタリーね』
『こわくなってきた』
星原は再び歩き出した。
スマートフォンのライトを消し、月明かりだけを頼りに道を進む。
「では次に動かぬ証拠……岬ノ村の様子をお見せしましょう」
闇の中を歩く星原の足取りに迷いはなかった。




