第43話 #拡散希望
茂みに一台のスマートフォンが置かれている。
液晶画面は配信中であることを示していた。
リアルタイムで視聴者数が増加し、表示されたコメント欄はそれなりの速度でスクロールする。
『まだ何も起きないの?』
『早くしろよ』
『つまらん』
『メシ食ってくる』
とある配信者が不審な形で姿を消し、配信中のスマートフォンだけが残された。
その話題性がネット上の人々を呼び込んだが、盛り上がりのピークは過ぎ去っていた。
現在は惰性で残る者達が雑談混じりにコメントを投下している。
茂み越しの景色は何時間も変化が無い。
たまに銃声や誰かの声らしきものが聞こえるものの、決定的な瞬間は撮れていなかった。
現在は日没によって暗くなり、視覚的に退屈なのも大きいだろう。
当初はセンセーショナルな出来事を期待した視聴者達もブーイングを飛ばしている。
そんな折、画面端に人間の足が映り込む。
靴を履いた女の足だった。
「わたくしの占いによると、この辺りにあるはずですが……」
何かを探しているような口調の女はスマートフォンの前で足を止めた。
物音がして配信画面のアングルが一気に変わる。
映し出されたのはローブ姿の女——占い師の星原だった。
彼女は澄まし顔で言う。
「やはりありました。天の導きに感謝します」
事態の急転にコメント欄が沸いた。
視聴者達は慌ててコメントを打ち始める。
『は!?』
『だれかきた』
『美人やん』
『胸でけーな』
『この人しってる。占い師の星田か星野だって』
『星原だろ』
視聴者達が盛り上がる中、当の星原はスマートフォンを回して観察する。
画面を見た彼女は、この端末で配信が行われていることに気付いた。
「まあ、素敵ですね。こんなにも多くの人がわたくしの話を聞いているのですか。光栄です」
『どうもー』
『こんにちはー』
『やっぱりドッキリじゃん』
『星原さーん、もっと谷間見せてー』
下火になった配信が再燃する。
各種SNSやネット掲示板、他の配信者によって拡散され、視聴者数が爆発的に膨れ上がったのだ。
数時間にも及ぶ肩透かしを経て、誰もがここからの劇的な展開を期待していた。
彼らは星原の一挙一動に注目する。
星原はスマートフォンを掲げて微笑する。
揺るぎない自信を軸とする態度だった。
彼女は画面の向こうの人々に向けて告げる。
「これも導きでしょう。皆様にすべてをお伝えします」




