第41話 占いの導き
その後も平野は村人を殺しながら進む。
満身創痍とは思えない素早い動きに加え、狂気を全面に出した姿は、対峙した者にどうしようもない恐怖と絶望を与える。
有栖川が立ち去って油断していた村人達は、為す術もなく殺されることになった。
戦闘中に反撃を食らっても平野は怯まない。
拷問された経験が苦痛に対する慣れを作っており、多少の傷は気にも留めていなかった。
彼は守りを捨てた立ち回りで村人達を蹂躙していく。
そんな平野が立ち止まったのは、銃を持った村人と鉢合わせた時だった。
「動くなっ!」
村人が構えるのはレバーアクション式のライフルだ。
照準は数メートル先にいる平野の額を狙う。
引き金に指をかけつつ、村人は言葉を続ける。
「一歩でも動いてみろ。すぐに」
「にひっ!」
平野は笑いながら走り出す。
放たれたライフル弾が平野の頭蓋を掠めて削るが、彼の行動を止めるには至らなかった。
平野は金属バットで村人の膝を砕き、その勢いのまま掴みかかる。
無理やり押し倒したところでナイフを相手の首に刺した。
引き抜いては刺してを繰り返し、反撃を許さず命を奪う。
立ち上がった平野はいきなり嘔吐する。
頭部を撃たれた影響だった。
彼はひとしきり吐いた後、ケラケラと笑い出す。
銃創から溢れる鮮血が白髪をまばらに染めていく。
「は、はははっ……あー、ひひっ」
平野は銃創にはんだごてを当てて処置する。
その際、近くの部屋の扉が半開きになっていることに気付いた。
彼は金属バットを振りかぶって室内に突入する。
部屋には誰もいなかった。
代わりに大量の段ボールが整頓されずに置かれている。
平野はその一つを破って開く。
中には瓶詰めの人間の耳や目玉が入っていた。
別の段ボールには錆びた刃物や鈍器が詰め込まれている。
平野が注目したのは、部屋の端に置かれた道具だった。
段ボールからはみ出たそれは火炎放射器だ。
燃料入りのボンベにチューブが付いて、持ち手のノズルまで繋がっている。
平野は現実逃避中の星座占いを思い出した。
『残念ですが、かに座のあなたは人生最悪の一日です。ただし自分を変える転機でもあります。臆病にならず、勇気を出して踏み出してみましょう。ラッキーアイテムは火炎放射器です』
金属バットを捨てた平野は、嬉々として火炎放射器を背負った。




