第36話 血で血を洗う
殴られたミヒロは地面に突っ伏す。
すぐに立ち上がろうとするも、彼女はよろめいて倒れた。
足腰が痙攣して思うように動かないのだ。
金属バットの打撃で脳に負ったダメージは深刻だった。
頭からの出血でミヒロの視界が赤く染まる。
ミヒロはぼたぼたと垂れる血を見て目を丸くした。
「ありゃ」
その直後、横殴りに振るわれた金属バットがミヒロの顔面に炸裂した。
折れた歯が転がり、尻餅をついたミヒロが吐血する。
鼻も曲がって血を噴き出していた。
堤田は自分の肩を金属バットで叩く。
ミヒロを睨む目は猛烈な憎悪に歪んでいた。
「ったく、手間取らせやがって」
「えいっ」
ミヒロがナイフを振るうも空を切る。
脳震盪で狙いが定まっておらず、動かない堤田にさえ当てられなかった。
金属バットがミヒロの指先を強打する。
鈍い音がしてナイフが落ちた。
中指と小指がおかしな方向にへし折れている。
それでもミヒロはナイフを拾おうともう一方の手を伸ばす。
しかし、上から叩き付けられた金属バットが妨害した。
無事だった手の甲が陥没し、ミヒロは指を開閉できなくなる。
「殺す前に苦しめてやる。覚悟しろよ」
堤田がミヒロを滅多打ちにする。
執拗に叩きつけられる金属バットに対し、ミヒロは背中を丸めてうずくまった。
無抵抗の彼女に容赦のない殴打が降り注ぐ。
やがて金属バットを捨てた堤田は、マイナスドライバーを逆手に握った。
それを構えてミヒロの背中に突き刺す。
「お返しだ」
堤田はマイナスドライバーで背中を刺しまくる。
一撃ごとに血が飛び散って両者の衣服を赤く染めた。
ミヒロはやはり動かず、じっとうずくまって耐えている。
悲鳴すら上げることがなかった。
反応が少なさに苛立った堤田は、ミヒロの首にマイナスドライバーを刺そうとする。
その瞬間、乾いた破裂音が鳴り響いた。
音を聞いた堤田はぎょっとする。
(しまった、銃か!?)
不意打ちで撃たれた可能性が脳裏を過ぎるも、堤田は銃創を折っていなかった。
ミヒロがうずまった姿勢からゆっくりと上体を起こす。
彼女の口から紐がぶら下がっている。
その先に付いているのはパーティー用のクラッカーだった。
彼女がパフォーマンス用に持ち歩く仕事道具であり、それを口で引いて作動させたのである。
「あーらら、油断しちゃったねダーリン?」
邪悪な笑みを湛えるミヒロが、負傷した指で堤田の背後を指す。
嫌な予感を覚えた堤田は咄嗟に振り返る。
椅子に拘束された平野が二人を眺めている――ただそれだけだった。
堤田が顔を戻すと、ミヒロが跳びかかってきた。
「にひっ」
彼女の両手が堤田の顔に添えられる。
左右の親指が彼の目に潜り込んできた。




