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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第33話 逃避思考、迫る苦痛

 男子生徒が楽しそうに平野を殴る。

 平野は一方的に苦痛を受けて朦朧としていた。


(どうして僕なんだ? 理不尽じゃないか……)


 男子生徒を押し退けようとするも身体が動かない。

 金縛りに遭ったかのように固まっていた。

 その間も男子生徒の暴力は続く。


「へへ、どうした。子供みたいに泣いてるじゃねえか」


 立ち上がった男子生徒が腹を踏み付けてくる。

 強烈な衝撃に平野は嘔吐する。

 吐瀉物には血も混ざっており、平野は何度も激しくせき込んだ。

 男子生徒は平野の顔や背中、足を執拗に蹴る。

 平野はやはり抵抗できず、ただ痛みに呻くしかなかった。


 満足するまで蹴った男子生徒は、今度は平野の背後に回り込む。

 首に腕を回して固定すると、力を込めて絞めていく。

 呼吸ができなくなった平野は目を見開いた。


「ぐ、ぶ……っ!?」


「まだ寝るんじゃねえぞ。時間はたっぷりあるからなあ」


 男子生徒は悪意に満ちた声音で告げる。

 平野の意識が途切れる寸前に腕の力を緩め、死なないように上手く調整していた。

 どこまでやれば手遅れになるか心得ているらしい。

 おかげで平野は、意識を保ったまま絶大な苦痛を味わい続ける羽目となった。


 やがて男子生徒は平野を解放する。

 彼はどこからともなく野球バットを取り出し、愉快そうに回しながら問う。


「野球は好きか?」


 バットのスイングが平野の胴体を叩く。

 肋骨の折れる激痛に平野は崩れ落ち、大粒の涙を流して悶絶した。


「あっ、ああああ、ああ……」


 男子生徒は容赦なくバットを振るう。

 平野はそのたびに情けない声を上げた。

 全身が痛みで覆われて、もはや正常な感覚が働いているかも怪しかった。


「ちが……う。こんなの、夢だ……夢に、決まっている……」


 泣きながら呟く平野の顔面にサッカーボールが直撃する。

 男子生徒が至近距離で蹴り飛ばしてきたのだ。

 奥まで突き抜けるような鼻の痛みに、平野は仰向けになった。


(寿司にワサビを付けすぎた時みたいだなぁ)


 平野は他人事のような感想を抱く。

 思考の放棄を感じ取ったのか、男子生徒が平野の髪を掴んだ。

 そして髪を乱暴に引っ張りながら言う。


「ほら、帰ってこい。現実逃避もほどほどにしようぜ」


 平野はゆっくりと見上げる。

 男子生徒の顔が中年の男に変わっていた。

 それは平野にとってどこかで見た顔だった。


(堤田……いや違う僕はそんな奴知らないここは高校で相手はクラスの不良だから……)


 平野は認識の齟齬と矛盾を手放そうとしなかった。

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[良い点] 平野くん…
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