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岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


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第32話 思い出の地

 平野は田んぼに挟まれた道をバイクで走る。

 彼の頭の中は口座の残金や仕事の悩みで占められていた。


(今月も厳しいな。食費を抑えないと。やっぱりバイトを増やして……いや、でも役者の仕事もやりたいし)


 背後でクラクションが鳴り、一台のミニバンが平野を追い抜く。

 その際、運転手の男が嘲るように言った。


「反応が悪くなってきたな。そろそろ正気に戻れよ」


 加速したミニバンはあっという間に見えなくなった。

 いきなり話しかけられたことで平野は困惑する。


「何なんだ……」


 意味不明な内容だったが、馬鹿にされたニュアンスは伝わっていた。

 平野は少し気分が悪くなったものの、すぐに思考を切り替える。

 何かと失敗しがちな平野にとって、誰かに叱責されたり蔑まれる経験は珍しくなかった。

 理不尽な目に遭うことにも慣れている。


 自分が我慢すれば丸く収まる。

 多少の損を許容してでも平穏な人生を送りたい。

 平野はそういった考えを根底に持ち、同時に嫌ってもいた。

 しかし結局は何も変えられないまま今に至る。


 平野が異変を感じたのは、それから十分後のことだった。

 どれだけ道を走っても目的のコンビニに着かないのである。

 田んぼに挟まれた一直線の道は延々と続いていた。

 変化のない景色に平野は不審がる。


(おかしいな。五分もかからないはずなのに)


 近所の道を間違えるはずもなく、平野はすっかり困り果てる。

 その時、一直線だった道路に右折できる道が出現する。

 平野は吸い寄せられるように減速して曲がった。


 しばらく進んだ先に会ったのは学校だった。

 田んぼの只中にぽつんと不自然に建っている。

 見覚えのある外観にバイクを止めた平野は、校門に刻まれた学校名に注目する。


「母校だ……」


 驚く平野はバイクを押して敷地内へ入る。

 母校は遥か遠くの地元にあるという地理的な矛盾や、不法侵入という考えは脳内から抜けていた。

 彼はふらふらと頼りない足取りで校舎を目指す。


 校舎や校庭は不気味なほどに静まり返り、人の気配が一切なかった。

 平野は「休日だから無人なのかもしれない」と推測するが、そもそも今日が何曜日か分からなかった。

 彼は己の記憶力の悪さに苦笑する。

 膨れ上がる違和感はあえて見ないようにしていた。


 昇降口に入ろうとしたところで、平野は背中を蹴飛ばされた。

 前につんのめった平野は転倒する。

 振り返ると、そこには制服姿の男子生徒が立っていた。

 男子生徒は意地の悪い顔で平野を見下ろしている。


(あっ、確かクラスの不良の……)


 思い出した瞬間、平野は顔面を殴られた。

 強烈な痛みで視界がちかちかと明滅し、地面に頭を打った。

 馬乗りになった男子生徒は容赦なく拳を振るってくる。

 平野は必死に腕で防ぐしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このまんま醒めない方がいいよ平野。多分君はもう手遅れだ。
[気になる点]  ……ああ、これはたぶん、(逆パターンの)夢オチか。  「往々にして、現実とは「醒めない悪夢」である」というのが、私の持論の一つです。 [一言] 続きも超気にしながら待ちます!
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